配位結合とは、一方の原子が持つ非共有電子対を他方の原子に一方的に提供してできる共有結合です。最もよく知られる例がアンモニウムイオン(NH₄⁺)で、アンモニア分子(NH₃)の窒素原子が持つ非共有電子対を、電子を持たない水素イオン(H⁺)に提供することで形成されます。同じ仕組みで、水分子(H₂O)の酸素原子の非共有電子対と水素イオンが配位結合するとオキソニウムイオン(H₃O⁺)ができます。
参考)https://kimika.net/r3haiiketsugo.html
配位結合は一度形成されると、通常の共有結合と見分けがつかなくなります。構造式では矢印(→)を使って配位結合を表しますが、この矢印は電子対の提供方向を示しており、非共有電子対を持つ側から電子を受け取る側へ向けて描かれます。実際の化学反応では、配位結合も共有結合と同等の強さを持ちます。
参考)https://brain.vicolla.jp/2018/10/03/coordination-bond/
アンモニウムイオンやオキソニウムイオンは、酸塩基反応の理解において重要な役割を果たします。これらのイオンは、非共有電子対を持つ分子に水素イオンが配位結合する典型例として、化学基礎の学習で最初に学ぶ配位結合の具体例です。
参考)配位結合とは?共有結合との違いと具体例の3パターンを完全網羅…
オキソ酸は酸素原子を含む酸の総称で、硫酸、硝酸、リン酸などの重要な酸性物質が配位結合によって形成されています。これらの酸は酸性酸化物(非金属の酸化物)が水と反応してできた化合物で、中心元素に酸素原子が配位結合することで構造が成り立っています。
参考)オキソ酸(例・酸化力・一覧・強さ・構造・酸化数など)
硫酸(H₂SO₄)の構造式を例に挙げると、硫黄原子を中心として、2つのOH基が共有結合し、さらに2つの酸素原子が配位結合しています。構造式を書く手順は以下の通りです。まず中心原子(硫黄)に原子価の数だけヒドロキシ基(-OH)をつけ、次に中心原子に非共有電子対があれば酸素原子を配位させます。硝酸(HNO₃)も同様に、窒素原子に1つのOH基と、配位結合した酸素原子が結合した構造を持ちます。
参考)丸暗記からの脱出!【第6回 理論化学 オキソ酸の構造式】 -…
リン酸(H₃PO₄)の場合は、リン原子に3つのOH基が結合し、1つの酸素原子が配位結合しています。第3周期以降の元素を含むオキソ酸では、構造式を配位結合の矢印ではなく二重結合で表記することもできますが、これは表記法の違いであり、実際の結合の性質は同じです。オキソ酸の配位結合を理解することは、酸の強さや反応性を理解する上で重要な基礎知識となります。
配位結合の具体例と構造式の詳しい解説(化学ネットワーク)
錯イオンとは、金属イオンに分子やイオンが配位結合してできた複合イオンのことです。配位結合している分子やイオンを配位子といい、配位子の数を配位数といいます。配位数は金属イオンの種類によって決まっており、この関係を理解することが錯イオンを学ぶ上で重要です。
参考)【錯イオン】色・配位数・形・価数・命名法を総まとめ
代表的な例として、以下の錯イオンが挙げられます:
参考)錯イオンとは(覚え方・形・配位数)
参考)【高校化学】「銀と銅の錯イオン」
注目すべき点として、配位数が4の場合、ほとんどの金属イオンは正四面体形の錯イオンを形成しますが、銅イオン(Cu²⁺)だけは正方形の構造をとります。これは銅イオンの電子配置に由来する特徴です。
錯イオンの形成反応では、金属イオンを含む水溶液にアンモニアなどの配位子を加えると、もともと金属イオンに配位していた水分子が置き換わり、新しい錯イオンが生成します。例えば、水酸化銅(Ⅱ)にアンモニアを加えると、深青色のテトラアンミン銅(Ⅱ)イオンが生成します。
複数の金属イオンと配位子の組み合わせでは、確率論的に多数の錯体が生成する可能性がありますが、配位子の設計によって特定の組み合わせだけを選択的に合成することも可能です。
参考)金沢大学理工研究域 秋根研究室(錯体化学・超分子化学)
錯イオンの詳しい解説と命名法(Manabitimes)
鉱物の性質は、その内部の化学結合によって決定されます。特に金属イオンを含む鉱物では、配位結合が重要な役割を果たしています。鉱物中の金属イオンは、周囲の酸素や硫黄などの原子と配位結合を形成し、特定の配位環境を持ちます。
鉱物中の元素置換においては、価数が同じでイオンの大きさも近い場合、相互に取り替えても結合距離など配位への影響が少なく結晶構造を保つことができます。例えば、カルシウム(Ca)をマグネシウム(Mg)やストロンチウム(Sr)で置換している鉱物が知られています。
配位数と配位環境は鉄(Fe³⁺)を含む鉱物の研究で詳しく調べられており、5配位のFe³⁺-O結合における化学結合性は配位環境の違いによって大きく異なることが示されています。正方錐面体配位をとる化合物の平均Fe³⁺-O距離は、配位数を考慮した期待値とほぼ同程度ですが、三方複錐面体配位の場合とは有意に異なる結果が得られています。
参考)https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-22540492/22540492seika.pdf
あまり知られていない興味深い事実として、不活性電子対を持つビスマス(Bi)やアンチモン(Sb)を含む鉱物では、本来化学結合に寄与しないとされる孤立電子対の電子雲にも実際には引力が生じており、周囲の原子と結合関係を構築していることが分かっています。輝安鉱(Sb₂S₃)などの鉱物では、不活性電子対を挟んだ二次配位結合距離がファン・デル・ワールス半径の和よりも明らかに短くなっており、これは不活性電子対が実際には周囲の原子と相互作用していることを示唆しています。
参考)https://www.geol.tsukuba.ac.jp/Mineralogy_Web/kyono_HP/activity_stibnite.html
配位原子が酸素(O)やフッ素(F)の場合、一般に共有結合性の小さい結合を作りますが、リン(P)、ヒ素(As)、硫黄(S)などの柔らかい配位原子では共有結合性が強く、π結合性が著しくなることが多いです。このような配位結合の性質の違いが、鉱物の物理的・化学的性質を決定する重要な要因となっています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi1943/27/10/27_10_939/_pdf
鉱物と化学結合に関する学術論文(J-STAGE)
配位結合における結合の強さは、非共有電子対を提供する原子の性質と、それを受け取る原子(特に金属イオン)の性質によって決まります。配位結合は一度形成されると共有結合と見分けがつかないため、結合の強さも通常の共有結合と同等になります。
参考)【化学基礎】結合の強さはどの順番? - キミノスクール
電気陰性度は、原子が共有電子対を引きつける強さを表す尺度で、2原子間の電気陰性度の差が大きいほど結合の極性は大きくなります。配位結合においても、この電気陰性度の差が結合の性質に影響を与えます。特に金属イオンと配位子の間では、電荷の違いにより強い静電的相互作用が働きます。
参考)301 Moved Permanently
非共有電子対を持つ分子(NH₃、H₂Oなど)は、金属イオンに配位結合することができます。金属イオンは陽イオン(原子が電子を放出してできたイオン)であるため、非共有電子対を持つ分子の電子対を強く引きつけます。この時、配位子の種類によって結合の強さが変わります。例えば、NH₂-CH₂-CH₂-OHのような分子では、OH基が金属イオンに結合する傾向が強くなります。
参考)https://pigboat-don-guri131.ssl-lolipop.jp/313%20Molecule%20%20and%20covalent%20bond.html
配位結合の強さを理解する上で重要なのは、配位子と金属イオンの組み合わせによって結合性が大きく変化するという点です。Werner型錯体では、配位数に応じて独特の立体構造を形成し、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)などの金属イオンが配位座6の場合には八面体型錯体を形成します。両座配位子(配位結合に関与する2種類の原子を有する配位子)の場合、中心金属イオン1個に対して最大3個まで配位することができ、これにより安定な錯体が形成されます。
参考)海洋性発光バクテリアhref="https://www.jstage.jst.go.jp/article/jec/31/0/31_23/_article/-char/ja/" target="_blank">https://www.jstage.jst.go.jp/article/jec/31/0/31_23/_article/-char/ja/lt;ihref="https://www.jstage.jst.go.jp/article/jec/31/0/31_23/_article/-char/ja/" target="_blank">https://www.jstage.jst.go.jp/article/jec/31/0/31_23/_article/-char/ja/gt;Vibrio fischerihref="https://www.jstage.jst.go.jp/article/jec/31/0/31_23/_article/-char/ja/" target="_blank">https://www.jstage.jst.go.jp/article/jec/31/0/31_23/_article/-char/ja/lt;/…
結合の強さの順序を一般的に示すと、共有結合(配位結合を含む)が最も強く、次いでイオン結合、金属結合、分子間力の順になります。配位結合が共有結合と同等の強さを持つのは、形成された後は両者が区別できないためです。