グラニュライト鉱物と変成作用の産地

グラニュライト鉱物の構成や変成作用の条件、世界的な産地について詳しく解説します。高温高圧環境で形成される特殊な鉱物組成とその地質学的意義とは?

グラニュライト鉱物の特徴と形成条件

グラニュライトの主要特徴
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超高温形成環境

約700~1000℃の高温と5000~13000気圧の高圧条件下で生成される変成岩

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特殊な鉱物組成

含水鉱物を含まず、粒状の鉱物結晶が特徴的な岩石構造を形成

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地球深部の記録

下部地殻を構成する代表的岩石で、先カンブリア時代に多く形成された

グラニュライトは、玄武岩・泥岩・斑れい岩などを原岩とする変成岩で、約800~1000℃および約5000~13000気圧という比較的高温高圧の環境で生成されます。「グラニュライト」という名称は、含まれる鉱物が粒状(グラニュール)をしていることに由来しており、粒状の砂糖を「グラニュー糖」と呼ぶのと同じ語源です。

 

この岩石の最大の特徴は、高温条件下では含水鉱物が不安定となって分解するため、典型的なグラニュライトには白雲母や普通角閃石などの含水鉱物がほとんど含まれないことです。黒雲母や角閃石は分解し、斜方輝石、カルシウム輝石、長石類などを生成します。一般にグラニュライトは、二酸化炭素を含む蒸気が通過することによって脱水が進行し形成されます。

 

グラニュライト鉱物の構成種類

グラニュライトの主要構成鉱物は、すべて水を含まない無水鉱物です。石英、カリウム長石(正長石)、斜長石が基本的な珪長質成分を構成し、これに斜方輝石、カルシウム輝石、ざくろ石、珪線石、きん青石、大隅石、サフィリン、コーネルピン、コランダム、スピネルなどが加わります。

 

泥岩質の化学組成を持つグラニュライトの場合、一般に石英、正長石、斜方輝石、FeやMgに富むざくろ石、きん青石を主成分鉱物とします。玄武岩質の化学組成の場合は、斜長石、斜方輝石、単斜輝石が主要な構成鉱物となります。

 

興味深いことに、グラニュライトでは元来無色であるはずの石英や長石が、しばしば青色、青緑色、褐色などに着色しています。このため珪長質成分に富む岩石でも、肉眼的には白色ないし淡灰色でなく、暗い色に見えることが特徴的です。この着色現象は、高温変成作用による結晶構造の変化や微量元素の影響によるものと考えられています。

 

グラニュライト変成作用の温度圧力条件

グラニュライト相の変成作用は、角閃岩相よりもさらに高温の条件で発生します。研究により報告されている具体的な温度圧力条件は以下の通りです。

 

温度範囲: 約700~1000℃、一部では950℃に達する超高温条件も報告されています。北海道日高変成帯の研究では、約800℃程度のピーク温度が記録されており、グラニュライト相変成岩が11.2キロバールで895℃の変成作用を被り、さらに10.9から11.4キロバールの間の圧力で873℃の後退変成作用を受けた事例も明らかになっています。
圧力範囲: 約0.5~1.3GPa(5000~13000気圧)に相当します。岐阜県北部の飛騨変成岩類では、720~850℃、0.5~0.9GPaという高温高圧条件が報告されており、グラニュライト相高圧部から高温部を経由し、角閃岩相へと変化したことが確認されています。
これらの条件は、地殻深部約20~40kmに相当する環境を示しており、グラニュライトは下部地殻を構成する代表的な岩石と考えられています。変成作用の過程では、二酸化炭素に富む流体の浸透が重要な役割を果たし、含水鉱物の分解と無水鉱物の生成を促進します。

 

グラニュライト産地の世界分布と日本国内

グラニュライトは先カンブリア時代の岩石に多く、世界各地の楯状地に広く分布しています。主要な産地として、カナダ楯状地、ノルウェー、マダガスカル、インド、スリランカ、南極、北ヨーロッパ、南部アフリカのリンポポ帯などが知られています。

 

ノルウェー産のグラニュライトは9億7000万年前に形成されたもので、950℃という非常に高温の変成作用を受けています。石英に似た紫灰色の大隅石、淡褐色の斜長石、黒っぽい斜方輝石などから構成され、変質していない良好な保存状態を示します。

 

マダガスカルでは、隣接する石灰珪質岩の脱ガスによる局所的な二酸化炭素の浸透によってグラニュライトが形成された事例が報告されています。スリランカのハイランド岩体には、コンダライトと呼ばれる泥質グラニュライトが広く産出し、珪岩やドロマイト質大理石に伴って分布しています。

 

日本国内では造山帯に位置するため、グラニュライトは比較的まれです。 主要な産地としては以下が挙げられます。

  • 北海道日高変成帯: 日高山脈を構成する広域変成岩帯で、ざくろ石-斜方輝石グラニュライトが産出します。幌満地域やニカンベツ川上流、神威岳周辺地域に分布し、19~37百万年前の年代が報告されています。
  • 九州・四国の黒瀬川構造帯: 秩父帯の中に断続的に現れるレンズ状岩体として産出します。四国産のグラニュライトには、赤褐色のざくろ石が目立ち、付加体に取り込まれた際に弱い変成作用を受けて一部が角閃石類や緑簾石に変質しています。
  • 脊振山地西部: 佐賀県唐津市七山白木付近に約3×1kmにわたり分布し、グラニュライト相変成岩類が確認されています。浮嶽の東北東部には泥質片岩や高圧型広域変成岩、ざくろ石帯が含まれる地質区域があります。

グラニュライト鉱物の珍しい特性と用途

グラニュライトには、一般的にはあまり知られていない興味深い特性がいくつかあります。

 

色の着色現象: 通常無色透明であるはずの石英や長石が、グラニュライト中では青色、青緑色、褐色などに着色します。この現象は、高温変成作用中に結晶格子に取り込まれた微量元素や、結晶構造の歪みによる光学的性質の変化が原因と考えられています。この着色により、珪長質のグラニュライトでも視覚的に暗色を呈し、他の変成岩と区別する重要な特徴となっています。
大隅石という珍しい鉱物: グラニュライトには大隅石という日本で発見された珍しい鉱物が含まれることがあります。大隅石は紫灰色を呈し、石英に似た外観を持ちます。また、青~暗青色のサフィリン、灰緑色柱状のコーネルピンなど、グラニュライト特有の希少鉱物も産出します。これらの鉱物は、超高温変成作用の指標として地質学的に重要な意味を持ちます。
地殻構造研究への応用: グラニュライトは下部地殻を構成する代表的な岩石であることから、地球内部の構造や進化を理解する上で重要な研究対象となっています。特に先カンブリア時代のグラニュライトは、地球初期の地殻形成プロセスを解明する鍵を握っています。
高温高圧実験の基準試料: グラニュライトに含まれる鉱物の組み合わせや化学組成は、地質温度計・圧力計として利用されます。例えば、ざくろ石と斜方輝石の間の元素分配や、輝石とざくろ石間のFe-Mg交換反応を分析することで、過去の変成作用の温度圧力条件を推定することができます。

グラニュライト研究から見える地球史

グラニュライトの研究は、地球の進化史を理解する上で極めて重要な情報を提供します。特に太古代末期の25~27億年前には、世界各地で高度変成岩(グラニュライト)が形成されました。

 

南部アフリカのリンポポ帯や東南極のナピア岩体は、この時代のグラニュライトの代表例として知られており、当時の地殻変動や大陸形成プロセスを記録しています。これらの古いグラニュライトは、地球が冷却する過程で地殻が厚化し、下部地殻が高温高圧環境に置かれたことを示しています。

 

東南極のリュツォ・ホルム岩体では、角閃岩相からグラニュライト相の岩石が広く分布し、東から西へ累進的に変成度が上昇する様子が観察されます。このような変成分帯は、プレート収束境界における地殻の深部埋没と上昇のプロセスを反映していると考えられています。

 

日本の日高変成帯のグラニュライトには、19~37百万年前という比較的新しい年代が記録されており、複数回の地殻形成イベントの証拠が残されています。これらの岩石は、太平洋プレートの沈み込みに伴う島弧形成過程で、地殻が深部まで埋没し高温変成作用を受けた後、上昇して地表に露出したものと解釈されています。

 

グラニュライトが記録する等温減圧履歴(温度がほぼ一定のまま圧力が減少する経路)は、地殻の急速な上昇や大規模な地殻変動を示唆しており、造山運動のダイナミクスを理解する上で重要な手がかりとなっています。このように、グラニュライトは単なる岩石標本ではなく、数億年から数十億年にわたる地球のダイナミックな変動を記録した「地球史の書物」といえるのです。

 

グラニュライトの基本情報と分類について - Wikipedia
グラニュライトの定義、変成条件、産状に関する基礎的な情報が記載されています。

 

グラニュライトの鉱物組成と産地情報 - 倉敷市立自然史博物館
世界各地のグラニュライト標本の特徴、構成鉱物、形成条件について詳しく解説されています。