普通輝石と単斜輝石の特徴、産地、火成岩との関係を解説

普通輝石は単斜輝石の代表的な鉱物で、玄武岩や安山岩などの火成岩に広く含まれています。斜方輝石との違いや化学組成、光学的性質、産地まで詳しく知りたくありませんか?

普通輝石と単斜輝石の基本

普通輝石の主要な特徴
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結晶系による分類

単斜晶系に属する輝石グループで、斜方晶系の頑火輝石とは異なる結晶構造を持つ

外観と色彩

暗緑色から暗褐色、黒色で短柱状結晶を形成し、透明感に乏しい特徴がある

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主な産出環境

玄武岩、安山岩、はんれい岩などの塩基性火成岩中に重要な造岩鉱物として存在

普通輝石は輝石族に属する代表的な鉱物で、単斜晶系の結晶構造を持つため単斜輝石に分類されます。化学組成は(Ca,Mg,Fe²⁺)₂Si₂O₆で表され、カルシウム、マグネシウム、鉄を主要成分とし、少量のアルミニウム、三価鉄、チタンなどを含んでいます。結晶系による分類では、輝石は大きく斜方晶系に属する斜方輝石(頑火輝石など)と、単斜晶系に属する単斜輝石(普通輝石、透輝石、灰鉄輝石など)の2つに分けられます。

 

普通輝石の特徴的な外観は、暗緑色から暗褐色、黒色を呈する短柱状結晶で、透明感に乏しく、二方向の劈開がほぼ直交する点にあります。火山岩中の自形結晶は粒度が大きい場合、肉眼では普通輝石か透輝石かを区別することは困難ですが、顕微鏡観察により識別が可能です。マグマの性質や晶出時期によって組成が著しく変化し、マグネシウムに富むものから鉄に富むものまで幅広い組成範囲を示します。

 

普通輝石の化学組成と結晶構造

 

普通輝石の基本的な化学式は(Ca,Mg,Fe,Al,Ti)₂(Si,Al)₂O₆で表され、その中でもカルシウム成分が重要な役割を果たしています。透輝石CaMgSi₂O₆と灰鉄輝石CaFe²⁺Si₂O₆の固溶体系列において、CaSiO₃が45モル%以上のものが普通輝石として定義されます。鉄分の多い灰鉄輝石に近づくほど暗緑色が濃くなる傾向があり、色調から組成をある程度推定することができます。

 

単斜晶系の結晶構造を持つため、結晶内部にはカルシウムとナトリウムが配置されるM2席と、アルミニウムとマグネシウムが配置されるM1席が存在します。この原子配列の特徴により、光学的性質にも独特の特性が現れ、偏光顕微鏡による鑑定において重要な判断材料となります。普通輝石の硬度は6で、比重は3.1~3.6の範囲にあり、ガラス光沢を示します。

 

結晶構造の特徴として、ケイ酸塩鉱物の基本単位であるSiO₄四面体が鎖状に連結したイノ珪酸塩の構造を持ちます。この鎖状構造が単斜晶系の対称性を生み出し、劈開面や光学的性質を決定しています。国際鉱物学連合(IMA)により1988年に輝石の分類と命名が整理され、20種の独立種のうち普通輝石はCa-Mg-Fe輝石グループの重要なメンバーとして位置づけられています。

 

普通輝石と斜方輝石の光学的違い

偏光顕微鏡による鉱物鑑定では、普通輝石と斜方輝石(頑火輝石)の区別が重要な課題となります。両者の最も顕著な違いは消光の様式にあり、斜方輝石が直消光を示すのに対し、単斜輝石である普通輝石は斜消光を示します。消光角は劈開面に対して測定され、普通輝石の場合は30度前後の値を示すことが多いですが、結晶方位によっては小さく見えることもあります。

 

光学的性質のもう一つの重要な違いは、多色性の有無です。斜方輝石は直消光で多色性があり、ステージを回転させると色が変化するのに対し、普通輝石は斜消光で多色性がほとんどなく、回転させても色がほとんど変わりません。この特徴を利用することで、薄片観察において両者を確実に区別することができます。

 

バイレフリンジェンス(複屈折)の違いも判別の手がかりとなります。斜方輝石は屈折率が高い割にバイレフリンジェンスが低いという特徴を持ちますが、普通輝石は比較的高いバイレフリンジェンスを示します。直交ニコル下での干渉色の観察により、この違いを確認することができます。さらに、結晶の外観においても、斜方輝石が赤みを帯びた褐色を呈することが多いのに対し、普通輝石は明るい抹茶色から黒色で透明感に乏しい特徴があります。

 

普通輝石を含む火成岩と産地

普通輝石は中性から塩基性の火成岩中に広く産出する重要な造岩鉱物です。特に玄武岩、安山岩、はんれい岩などに多く含まれ、これらの岩石の有色鉱物として主要な役割を果たしています。火山岩中では斑晶として柱状あるいは短柱状の結晶を形成し、細長い角閃石と比較するとコロコロとした短柱形の外観を持つのが特徴的です。

 

日本国内の普通輝石の主要産地としては、長野県、佐賀県伊万里市、神奈川県などが知られています。1923年(大正12年)に初めて記載された産地もあり、長い研究の歴史があります。安山岩の分離結晶として聖山、秋間川、谷峨などでも産出が確認されており、各産地ごとに特有の結晶形態を持つことが報告されています。

 

火成岩の形成過程において、普通輝石はマグマからの晶出温度や圧力条件によって組成が変化します。アルカリ玄武岩中のものにはチタンに富むものがあり、チタン輝石(titanaugite)と呼ばれます。また、ナトリウムが富んでくると、エジリン普通輝石(aegirine-augite)として区別されます。深成岩のはんれい岩中では、斜長石と共存して粗粒な結晶を形成し、不規則な他形の黒い結晶として産出することが一般的です。

 

普通輝石の形成環境と変成作用

普通輝石は火成作用だけでなく、変成作用によっても形成されることがあります。玄武岩やはんれい岩などの苦鉄質岩が角閃岩相、角閃石ホルンフェルス相の変成を受けると単斜輝石が生成されます。より高温の輝石ホルンフェルス相では、斜方輝石と単斜輝石の両方が形成される条件となります。

 

変成岩中の単斜輝石は、主に灰鉄輝石と透輝石の固溶体として存在し、スカルン鉱床において特徴的に産出します。火成岩中に見られる単斜輝石は普通輝石か透輝石であるのに対し、変成岩中には普通輝石はほとんど見られないという興味深い違いがあります。これは形成時の化学的・物理的条件の違いを反映しています。

 

海洋底のプレート中層部を構成していたはんれい岩が、プレートの移動により造山帯で地下に沈み込み、弱い変成作用を受けた場合、元のはんれい岩中の輝石類はアクチノ閃石(角閃石の一種)に変質します。この変質過程では、CaMgSi₂O₆ + H₂O → Ca₂(Mg,Fe)₅Si₈O₂₂(OH)₂のような化学反応が進行し、水の介在により輝石が角閃石へと変化します。このような変質した岩石は「変はんれい岩」と呼ばれ、暗緑色緻密な繊維状から針状集合体のアクチノ閃石を含むのが特徴です。

 

普通輝石の鑑定方法と工業的利用

普通輝石の鑑定には、肉眼観察と偏光顕微鏡観察を組み合わせた方法が用いられます。肉眼では、暗緑色から黒色の短柱状結晶で、二方向の劈開がほぼ直交し、劈開面にガラス光沢を示すことを確認します。紫蘇輝石(頑火輝石)とよく似ていて見分けるのが困難ですが、普通輝石は赤みを帯びることが少なく、透明感に乏しいという点で区別できます。

 

偏光顕微鏡下での鑑定では、まずオープンニコル(単ニコル)で多色性の有無を確認します。普通輝石は多色性がほとんどなく、ステージを回転させても色がほとんど変わりません。次にクロスニコル(直交ニコル)で消光の様式を観察し、劈開に対して斜消光(消光角約30度)を示すことを確認します。この斜消光という特徴が、直消光を示す斜方輝石との決定的な違いとなります。

 

輝石類の工業的利用については、エンスタタイト(頑火輝石)が融点が高く耐火性を持つため工業用に利用される例があります。また、スポジュメン(リチウム輝石)は、リチウム資源として重視されており、セラミックス、携帯電話、自動車のバッテリー、医療分野などでの応用が期待されています。年間80,000トンに及ぶリチウムがスポジュメンから精製され、主として西オーストラリア、中国、チリで採掘されたものが原料として利用されています。普通輝石自体は造岩鉱物としての重要性が高く、地質学的研究や岩石鑑定において不可欠な存在です。

 

倉敷市立自然史博物館による輝石類の詳細な分類と特徴の解説
ウィキペディアによる輝石の種類と化学組成の包括的な説明
コトバンクによる普通輝石の鉱物学的定義と産状の説明

 

 


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