藤田美術館 曜変天目で味わう漆黒と青の神秘

藤田美術館が誇る国宝・曜変天目茶碗。外側にも宇宙が広がる唯一無二の名椀を、その歴史や鑑賞ポイント、製法の謎、現代陶芸家の再現への挑戦とともに詳しく解説します。実際に見学する際の楽しみ方もご紹介していますが、あなたはこの茶碗の魅力をどこまで知っていますか?

藤田美術館 曜変天目の魅力

この記事でわかること
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藤田美術館の曜変天目とは

世界に3点しかない完品のひとつで、外側にも曜変が現れる唯一の国宝茶碗

鑑賞の見どころ

漆黒の器に浮かぶ青い斑紋と虹色の光彩、角度によって七変化する神秘の美

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製法と再現への挑戦

未解明の製法の謎に迫る最新研究と、現代陶芸家による再現への情熱

藤田美術館所蔵の曜変天目茶碗の特徴

 

藤田美術館が所蔵する曜変天目茶碗は、世界に3点のみ現存する完品のひとつで、国宝に指定されています。この茶碗の最大の特徴は、茶碗の内側だけでなく外側にも強く曜変が現れている点で、これは3点の曜変天目の中で唯一のものです。12〜13世紀の中国・福建省建陽市の建窯で焼成されたと考えられており、漆黒の釉薬に青や緑、虹色の光彩模様が浮かび上がる神秘的な美しさを持ちます。
参考)曜変天目茶碗 (藤田美術館) - Wikipedia

この茶碗は徳川家康から水戸徳川家初代の徳川頼房へと譲られ、水戸徳川家に代々伝来してきました。大正7年(1918年)の水戸家の売立てにおいて、藤田傳三郎の長男・平太郎が53,800円で購入し、藤田美術館の所蔵となりました。当時の1円を現代の価値に換算すると約1万円とされるため、現在の価値では約5億円以上の価格だったことになります。
参考)藤田美術館の至宝  国宝 曜変天目茶碗と日本の美

天目形の特徴である鼈口(すっぽんぐち)と呼ばれる口縁のくびれ、小振りの削り高台、腰付近の厚い釉溜まりなど、茶碗としての造形美も見事です。完璧なフォルムは工業製品のような均整を持ちながら、手作りの温もりも感じられる逸品となっています。
参考)うおお、曜変天目。藤田美術館と大阪城に行ってきた/大阪 href="https://swordtrip.wordpress.com/2023/06/16/fujita-museum/" target="_blank">https://swordtrip.wordpress.com/2023/06/16/fujita-museum/amp;#…

曜変天目の歴史と伝来の謎

曜変天目茶碗は南宋時代(12〜13世紀)に中国で作られたとされ、中国・浙江省杭州市内の南宋時代の宮廷近くの公的施設跡から、現存品に似た陶片が発見されています。この発見により、曜変天目が宮廷で使用されていた可能性が示唆されており、当時から貴重な茶碗として扱われていたと考えられています。
参考)「曜変天目」とは?世界に3点しかない国宝の歴史と魅力に迫る

日本には鎌倉時代から室町時代にかけて多くの天目茶碗が禅宗寺院を通じてもたらされ、唐物文化の代表格として重用されました。「曜変」という言葉自体も室町時代の日本で生まれたもので、室町時代前期に作られた往来物には「天目」や「曜変」といった記述が確認されています。
参考)人々を魅了する神秘の美

藤田美術館の曜変天目は、徳川家康が所持していたものですが、それ以前の伝来は詳細が不明です。家康から水戸徳川家に与えられた後、明治維新によって大名家の文化財が海外流出や粗雑な扱いを受ける危機に直面しました。藤田傳三郎はこうした状況を憂い、日本の文化財を守るために自ら買い集めるようになり、息子の平太郎がこの曜変天目を購入しました。
参考)http://ryuss2.pvsa.mmrs.jp/henshukoki-2015/no323-151001.html

藤田美術館での曜変天目鑑賞ポイント

藤田美術館では、曜変天目茶碗を360度から鑑賞できる展示方法を採用しています。茶碗の内側に広がる銀河のような斑紋はもちろん、外側にも現れる宇宙のような光彩を存分に楽しむことができます。
参考)【その3・完結編】国宝・曜変天目茶碗 三椀鑑賞完全制覇への道…

鑑賞の際は、見る角度や光の当たり方によって表情が劇的に変化する点に注目してください。ある角度では青や紫の斑紋が強く輝き、別の角度では玉虫色に変化します。特に藤田美術館の曜変天目は、斑紋の縁に層状の色彩が重なり、奥行きと立体感が感じられるのが特徴です。
参考)曜変天目の魅力

光源を変えながら観察すると、斑紋が現れたり消えたりする瞬間を目撃できます。一つの斑紋と光彩に集中して、移動しながら見ることで、輝きが強まったり弱まったりする様子が分かり、まるで生きているかのような茶碗の表情を楽しめます。漆黒の釉薬の美しさと、そこに浮かぶ虹色のきらめきのコントラストは、何度見ても飽きることがありません。
参考)国宝「曜変天目茶碗」輝きの秘密 最新科学で真相に迫る : 読…

曜変天目の製法と窯変の秘密

曜変天目の製法は現在でも完全には解明されておらず、その神秘性が多くの研究者や陶芸家を魅了し続けています。「曜変」は「窯変(ようへん)」から変化した言葉で、建窯での焼成中に起こる偶然の化学変化によって生み出されたと考えられています。
参考)曜変天目〜宇宙を宿す奇跡の茶碗〜|伊都佐知子

最新の研究によると、曜変天目は約1320℃の高火度焼成で、酸化と還元を繰り返す複雑な工程を経て作られた可能性があります。九代長江惣吉氏の再現実験では、最高温度から約100℃下がった時点で強還元状態に移行し、釉中のガスを星状に発泡させた後、再び酸化状態に戻して気泡を破裂させることで独特の斑文を形成したとされています。
参考)黒の奇跡・曜変天目の秘密(その7):

光彩を生じさせるためには「酸性ガス法」が用いられた可能性が指摘されており、建窯から採集した蛍石や硫化鉱物を窯に投入し、発生したフッ化水素ガスを釉面と反応させることで、重金属を用いずに発色させる方法が提案されています。一方、2023年に中国・杭州出土の曜変天目陶片の分析結果が発表され、斑文が絵付けされた可能性も示唆されるなど、製法の解明は現在も進行中です。​

現代陶芸家による曜変天目の再現挑戦

曜変天目の稀有な美に魅せられた現代の陶芸家たちが、親子二代にわたって再現に取り組むなど、情熱的な挑戦を続けています。瀬戸の陶芸家・九代長江惣吉氏は、父・八代長江惣吉(1929〜1995)の研究を受け継ぎ、建窯に50回以上も通い、建窯の土80トンを日本へ運び込んで試行錯誤を重ねています。
参考)https://kurodatouen.com/blog-sk/20181110-2

京都の陶芸家・土渕善亜貴氏は、曜変天目を焼くためだけにガス窯と電気窯を組み合わせたハイブリッド窯を3台開発しました。2017年からの1年間で500〜600回もの窯焼きを行い、通常10年分に相当する作業をこなして、瑠璃色に輝く光彩の再現に成功しています。どのように焼けばどのような色が出るのか、細かな実験を繰り返した結果、数千個もの茶碗を制作したそうです。​
他にも林恭助氏、瀬戸毅己氏、桶谷寧氏など、複数の陶芸家がそれぞれ独自の技法で静嘉堂文庫美術館の国宝・曜変天目茶碗の再現に挑んでいます。これらの現代作家による曜変天目は、美術館や茶屋で実際に手に取って鑑賞できる機会もあり、国宝との違いや共通点を体感できる貴重な体験となっています。
参考)https://www.moco.or.jp/exhibition/current/?e=569

藤田美術館と周辺の楽しみ方

藤田美術館は大阪城のすぐ近く、JR東西線「大阪城北詰」駅から徒歩すぐの場所に位置しており、観光のついでに立ち寄りやすい立地です。2017〜2022年まで長期休館していましたが、リニューアル後はガラス張りの明るいエントランスと、モダンな展示空間に生まれ変わりました。
参考)https://ameblo.jp/sunshinepanda/entry-12927243429.html

館内はスマホでのみ撮影が可能で(コンデジ・一眼などのカメラはNG)、展示品案内ページを自分のスマホから見る形式になっています。併設の茶屋「あみじま茶屋」では、目の前でお抹茶を立てていただき、現代作家のお茶碗で味わうことができます。注文が入ってから炙るお醤油とあんこの団子は、お店で炊いたあんこの上品な甘さが絶品です。​
美術館から庭を通り抜けて地下道を渡ると、すぐに大阪城天守閣が見えてきます。藤田美術館の蔵は1945年の大阪大空襲で邸宅のほとんどが焼失した際にも延焼を免れ、曜変天目茶碗を含む貴重な美術品を守り抜いた歴史があります。曜変天目茶碗が収められている箱も、歴代の所有者が誂えたもので、水戸徳川家や藤田家の箱が展示されることもあります。
参考)特別展示「誂 −贅を凝らす−」

藤田美術館公式サイトでは、開館時間や展覧会情報、アクセス方法などの最新情報を確認できます。特別展示では曜変天目茶碗と付属品が一緒に展示される貴重な機会もありますので、訪問前にチェックすることをおすすめします。