ファラデーの電磁誘導の法則は、V = -N(ΔΦ/Δt) という式で表されます。この式において、Vは誘導起電力、Nはコイルの巻数、ΔΦは磁束の変化量、Δtは時間の変化量を示します。多くの学習者が疑問に思うのが、この式に登場するマイナス記号の意味です。
参考)電磁誘導・交流と電磁波
マイナス記号は、誘導起電力の「向き」を表現するために存在しています。物理学において、ベクトル量や向きを持つ量を扱う際、正負の符号で方向を区別することは一般的な手法です。電磁誘導においても、この符号によって起電力がどちらの方向に働くかを数式上で明確にしているのです。
参考)【ファラデーの法則とは?】『公式』や『積分形』や『微分形』な…
実際の計算問題では、マイナス記号の扱いが混乱の原因となることがあります。問題によっては式にマイナスが付いたり付かなかったりするように見えますが、これは問題文で定めた「正の向き」の設定方法によって変わるためです。誘導起電力の大きさだけを求める場合は、マイナスを無視して絶対値で計算し、向きについては別途レンツの法則を用いて判定するのが実用的なアプローチです。
参考)電磁誘導のマイナスって何よ!困らない起電力の向きの求め方。
磁束が時間的に変化すると、その変化率に比例した起電力が発生するというのがファラデーの法則の本質です。磁束Φの変化が大きいほど、またその変化が短時間で起こるほど、誘導起電力の大きさは増大します。これは、磁石をコイルに素早く近づけたときに大きな起電力が生じる現象として観察できます。
コイルの巻数Nと誘導起電力の関係も重要な要素です。巻数が多いほど誘導起電力は大きくなり、この比例関係もファラデーの法則に含まれています。N巻きのコイルでは、各巻きで生じる起電力が合計されるため、全体の起電力はN倍になるのです。
磁束の変化率ΔΦ/Δtは、単位時間あたりにどれだけ磁束が増減するかを示す量です。磁石を動かす速度が速いほど、またコイル内の磁束密度が高いほど、この変化率は大きくなります。発電機や変圧器などの電気機器は、この原理を応用して設計されています。
参考)電磁誘導の公式にはなぜマイナスがつくのでしょうか?
進研ゼミの解説ページでは、具体的な回路例を用いてマイナス記号の意味を詳しく説明しています
レンツの法則は、1834年にロシアの物理学者ハインリヒ・レンツによって発見された法則で、電磁誘導によって生じる誘導起電力の向きを決定します。この法則の核心は、「誘導起電力は元の磁束の変化を妨げる向きに生じる」という点にあります。
参考)【レンツの法則とは】起電力の向きについてわかりやすく解説!
具体的な例で考えてみましょう。コイルにN極の磁石を近づけると、コイルを貫く磁束が増加します。このとき、レンツの法則により、磁束の増加を妨げる方向、つまり磁石のN極を押し返すような向きに誘導電流が流れます。逆に磁石を遠ざける場合は、磁束の減少を妨げるように、磁石を引き寄せる向きの誘導電流が発生するのです。
参考)【高校物理】「レンツ法則(誘導電流の方向)」
誘導電流の向きは右ねじの法則(右手の法則)を用いて判定できます。親指を磁束の向きに合わせたとき、他の4本の指が示す回転方向が誘導電流の流れる向きになります。この方法により、下向きに磁束が増える場合には左回りの誘導電流が、上向きに磁束が増える場合には右回りの誘導電流が流れることが分かります。
数式V = -N(ΔΦ/Δt)のマイナス記号は、レンツの法則を数学的に表現したものです。このマイナスには「磁束の変化を妨げる」という物理的意味が込められています。正の向きをどのように設定するかによって、計算結果の符号が変わることになります。
参考)【高校物理】「自己誘導の方向の決め方」
例えば、下向きの磁束が増加する状況を考えます。もし右回りを正の向きと定義した場合、誘導起電力は左回りに発生するため、V < 0となる必要があります。このとき磁束の変化ΔΦ > 0なので、マイナス記号が必要になるのです。逆に下向きの磁束が減少する場合は、ΔΦ < 0となり、マイナスを掛けることでV > 0となります。
一般的な式を導出する際、向きの定義に関わらず普遍的に成り立つ形にするため、マイナス記号を含む形式が採用されています。実務的には、起電力の大きさを求める際にはマイナスを無視し、向きについてはレンツの法則で別途判定する方法が推奨されます。
| 磁束の変化 | ΔΦの符号 | 誘導電流の向き | 起電力の符号 |
|---|---|---|---|
| 下向きに増加 | 正(+) | 左回り(負の向き) | 負(-) |
| 下向きに減少 | 負(-) | 右回り(正の向き) | 正(+) |
| 上向きに増加 | 正(+) | 右回り(負の向き) | 負(-) |
| 上向きに減少 | 負(-) | 左回り(正の向き) | 正(+) |
電磁誘導の原理は、鉱石ラジオなどの実用的な装置にも応用されています。鉱石ラジオには電界探知式と磁界探知式があり、磁界探知式ではファラデーの電磁誘導の法則が直接的に利用されています。電波によって変動する磁場がコイルを貫くと、その磁束変化に応じて誘導起電力が発生し、これが音声信号として検出されるのです。
参考)https://researchmap.jp/tkobayashi/misc/10876543/attachment_file.pdf
鉱物とエレクトロニクスの関係は古くから深く、カセットテープに用いられる磁性粉も鉱石のゲータイトから誘導して製造されています。電磁誘導の原理を応用した技術は、鉱石の磁気的性質を測定する探査にも用いられており、地下資源の探査や鉱床の位置特定に活用されています。
電磁探査法では、地中に電磁波を送り込み、鉱石や地質構造による反射波を測定します。導電性の高い金属鉱石は電磁誘導により渦電流を発生させ、これが二次的な磁場を作り出すため、地表での磁場測定によって鉱床の位置を推定できるのです。この技術は鉄鉱石探査において特に有効で、地磁気の変動パターンから埋蔵位置を特定できます。
参考)301 Moved Permanently
ファラデーの法則の積分形や微分形など、より詳細な数学的表現についての解説
マイケル・ファラデーは1831年に一連の重要な実験を行い、電磁誘導を発見しました。彼の画期的な実験では、鉄の環に絶縁された導線を巻きつけて2つのコイルを作り、一方のコイルに電流を流すともう一方のコイルに瞬間的に電流が流れることを観察しました。この発見は8月29日に行われ、現代の電気文明の基礎となる重要な瞬間でした。
参考)ファラデー
ファラデーの発見にはわずかに先行する研究者がいました。ジョゼフ・ヘンリーが数カ月前に同様の発見をしており、さらにイタリアのフランチェスコ・ツァンテデスキが1829年と1830年に関連する論文を発表していました。しかし、ファラデーの体系的な実験と明確な理論化により、電磁誘導の法則は彼の名前で広く知られるようになったのです。
参考)マイケル・ファラデー - Wikipedia
ファラデーはロンドンの貧しい製本業から研究の世界に転じた人物で、正規の教育を十分に受けていませんでした。それにもかかわらず、彼の実験的直感と粘り強い観察により、電磁誘導だけでなく電気分解の法則やファラデー効果など、多くの重要な物理現象を発見しました。彼の研究は19世紀後半にジェームズ・クラーク・マクスウェルによって数学的理論に高められ、電磁場理論として確立されました。
ファラデーのノートには「私はついに磁気の曲線または『力の線』を解明し、光線を磁化することに成功した」という記述があります。この「力の線」という概念は、現代の磁力線や電気力線の概念につながる革新的なアイデアでした。彼の業績は発電機やモーター、変圧器などの電気機器の発明を可能にし、産業革命以降の技術発展に計り知れない影響を与えました。
ファラデーの法則とレンツの法則の違いをまとめた解説記事