塩化ストロンチウムは化学式SrCl₂で表される、ストロンチウムと塩素からなるイオン性化合物です。無水物の分子量は158.53、六水和物(SrCl₂・6H₂O)の分子量は266.62となります。無水物は蛍石型構造を持つ等軸晶系の白色結晶で、格子定数a=0.700nm(26℃)、融点875℃、沸点1250℃、密度3.05g/cm³という物性を示します。
参考)塩化ストロンチウム - Wikipedia
六水和物は斜方晶系の白色結晶で、密度1.93g/cm³、やや吸湿性があり水に極めて溶けやすい性質を持ちます。無水物は潮解性があり、水に易溶、アセトンおよびエタノールに難溶という溶解性を示します。この化合物は水溶解度が53.8g/100mL(20℃)と非常に高く、水溶液中ではストロンチウムイオンSr²⁺と塩化物イオンCl⁻に電離します。
参考)塩化ストロンチウム(エンカストロンチウム)とは? 意味や使い…
化学式SrCl₂は、ストロンチウムイオンSr²⁺と塩化物イオンCl⁻が1:2の比で結合していることを表しています。Hill方式で表記すると「Cl₂Sr」となり、元素記号をアルファベット順に並べた形式になります。六水和物の場合、化学式はSrCl₂・6H₂OまたはSrCl₂*6H₂Oと表記され、1分子の塩化ストロンチウムに6分子の結晶水が含まれることを示します。
参考)塩化ストロンチウム(6水和物)
学術論文では「SrCl₂・6H₂O」のように中黒(・)を使った表記も一般的です。CAS番号は無水物が10476-85-4、六水和物が10025-70-4と異なる番号が割り当てられており、化学物質としては別の形態として管理されています。化審法では(1)一261として登録され、安全衛生法でも公表されている化学物質です。
参考)https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/substance/strontiumchloride1585310476854
塩化ストロンチウムには無水物、一水和物、二水和物、六水和物の複数の水和状態が存在します。六水和物を加熱すると、61℃で二水和物(SrCl₂・2H₂O)となり、さらに132~154℃で一水和物(SrCl₂・H₂O)に、320~345℃で無水物に変化します。別の文献では、60℃で二水和物、約100℃で一水和物、約150℃で無水物になると報告されています。
参考)http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/19663150.pdf
この段階的な脱水過程は結晶水の熱的安定性を反映しており、温度制御によって特定の水和状態を得ることが可能です。無水物は融点875℃と高温でも安定ですが、潮解性が強いため大気中の水分を吸収して水和物に戻る傾向があります。一方、六水和物はやや吸湿性がある程度で、比較的取り扱いやすい形態です。
参考)塩化ストロンチウム·6水和物
工業的には六水和物の形で製造・流通されることが多く、試薬としても一般的にこの形態が用いられます。水和物と無水物では密度が大きく異なり(1.93g/cm³対3.05g/cm³)、これは結晶構造と分子間距離の違いを反映しています。
塩化ストロンチウムは鮮やかな紅色の炎色反応を示し、これが花火の赤色着色剤として広く利用される理由です。この発光は一般的な金属の原子発光とは異なり、SrCl分子の励起状態による「分子発光」という特徴を持ちます。加熱により塩化ストロンチウムSrCl₂はSrClとClに分解し、さらにSrClが励起状態SrCl*となり、基底状態に戻る際に紅色の光を放出します。
参考)https://www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/streaming/comb/018.html
発光スペクトルを詳しく見ると、赤色領域に大きく分裂した多数のピークがあり、各ピークにはさらに幅があります。それぞれのピークはSr-Cl結合の振動に由来し、ピークの幅はSrCl分子の回転に由来するという、分子特有の複雑な構造を示します。花火では金属塩の炎色反応が利用され、黄色はナトリウム、鮮やかな紅色はストロンチウム、青緑は銅といった具合に色分けされています。
参考)https://www.ncsm.city.nagoya.jp/cgi-bin/visit/exhibition_guide/exhibit.cgi?id=S519amp;key=%E3%81%BB
興味深いことに、同じストロンチウムでも陰イオンの種類によってスペクトルや発光色調が変わります。例えば硝酸ストロンチウムSr(NO₃)₂の水溶液を加熱するとSrOH*由来の発光が得られますが、これは紅色ではなくピンク色に発光します。非常信号用の発煙筒にもストロンチウムの赤い発色が使われており、視認性の高さが評価されています。
参考)放課後化学講義室 炎色反応:ストロンチウムは分子発光!
東邦大学バーチャルラボラトリでは塩化ストロンチウムの炎色反応の動画が公開されており、塩化リチウムとの違いを視覚的に確認できます
塩化ストロンチウムの基本的な製造法は、炭酸ストロンチウムSrCO₃を塩酸HClに溶解させ、濃縮して結晶化させる方法です。この方法はストロンチウム源として天青石(硫酸ストロンチウムSrSO₄)などの鉱石を炭酸塩に変換してから用いることが多く、鉱石資源の有効活用につながります。工業的には炭酸ストロンチウムと塩化カルシウムCaCl₂を混合して溶融し、これを水で抽出した後濃縮する方法も用いられます。
参考)https://www.san-esugypsum.co.jp/product/inorganic-materials/strontium-chloride/
より詳細な工業プロセスでは、SrCO₃に水を加えてスラリを調製し、そこに塩酸を加えて溶解させます。得られた溶液に過酸化水素を加えて鉄などの不純物を酸化除去し、濾過によって不純物を分離します。濾液を濃縮・冷却して塩化ストロンチウム六水和物SrCl₂・6H₂Oの結晶を析出させ、加圧濾過で分離します。
参考)https://patents.google.com/patent/JP5241778B2/ja
結晶は振動流動床などで一次乾燥し、その後180~230℃の熱風で二次乾燥して製品とします。分離した母液は再びSrCO₃溶解工程に戻して再利用することで、ストロンチウムの回収率を高めています。この循環プロセスにより資源の有効利用と廃棄物の削減が実現されます。
天青石(セレスタイン)は硫酸ストロンチウムSrSO₄を主成分とする鉱物で、ストロンチウム化合物の工業的原料として重要です。この鉱石は「空色」という意味の名前の通り、美しい青灰色を呈することが多く、ガラスまたは真珠光沢を持つ斜方晶系の結晶です。硬度は3~3.5、比重は平均3.95で、マダガスカル産のものにはジオード(晶洞)中に美しい群晶を作るものが知られています。
参考)http://www.jiban-fluorite.com/mineral/celest.html
海水からのストロンチウム濃縮技術も注目されています。海水にはカルシウムなど他の成分が含まれているため、イオン交換樹脂カラムを用いてストロンチウムを選択的に吸着させます。酢酸アンモニウム溶液-メタノール混合液(溶離液A)でカルシウムなどを溶出除去した後、塩酸でストロンチウムをカラムから取り出します。取り出したストロンチウム溶液を水酸化ナトリウムNaOHでpH調整し、炭酸ナトリウムNa₂CO₃を加えて炭酸ストロンチウムを生成させ、遠心分離で沈殿回収します。
参考)夏の花火に大活躍の元素、ストロンチウム
この沈殿回収を繰り返すことでさらに濃縮し、最終的に塩酸で再溶解させます。酢酸アンモニウム溶液(溶離液B)で再度精製してストロンチウム濃度を上げ、蒸発乾固後に希硝酸に溶かして製品とします。このような海水からの抽出プロセスは、陸上鉱石資源に依存しない新しいストロンチウム供給源として期待されています。
塩化ストロンチウムは花火の深紅色着色剤として最も有名ですが、それ以外にも多様な産業用途があります。蛍光体の製造原料、醸造における酵母固定剤、人工海水の調製、他のストロンチウム化合物の製造原料などに用いられます。分析化学の分野では、原子吸光分析における干渉抑制剤として重要な役割を果たします。
フレーム原子吸光分析では、試料溶液にストロンチウムイオンを添加することで、カルシウムやマグネシウムなどのアルカリ土類金属の測定精度が向上します。歯科材料や医薬品の分野でもストロンチウム化合物の需要があり、塩化ストロンチウムはその製造中間体として利用されます。放射性同位体である塩化ストロンチウム-89(⁸⁹Sr)は、骨転移による疼痛緩和治療に使用される医療用放射性医薬品です。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/d1b6be4e23a2239f32d5b6a9530b8024f42bbc46
ガラス産業では、かつてブラウン管用チューブガラスの添加剤として大量に使用されていました。ストロンチウム添加によって高温での粘度低下、溶融性向上などの効果が期待でき、現在でも太陽光発電用ガラスの添加剤やフェライト磁石の製造に使われています。セラミックス分野では、高温環境で使用される部品の熱安定性と機械的強度の向上に寄与します。
参考)ストロンチウム元素の性質と用途
サンエス石膏株式会社のサイトでは塩化ストロンチウムの詳細な規格と用途情報が掲載されています

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