電気二重層キャパシタと構造・仕組み・エネルギー密度・用途

電気二重層キャパシタは活性炭電極と電解液の界面に形成される電気二重層を利用した蓄電デバイスです。化学反応を伴わず物理的に電荷を貯える仕組みで、二次電池と比べて出力密度や寿命に優れます。実際の用途や特性、あなたは知っていますか?

電気二重層キャパシタと構造・仕組み

電気二重層キャパシタの主な特徴
高出力密度

瞬間的に大きな電力を取り出せる特性を持ち、急速充放電が可能

♻️
長寿命

化学反応を伴わないため充放電による劣化が少なく、数十万回以上の充放電サイクルに耐える

🔋
物理的蓄電

活性炭電極表面での物理的なイオン吸着により電気エネルギーを貯蔵

電気二重層キャパシタの基本構造と電極材料

 

電気二重層キャパシタ(EDLC)は、活性炭の電極と電解液で構成される蓄電デバイスです。電極には比表面積の大きな活性炭が用いられており、その多孔質構造により極めて広い表面積を実現しています。活性炭の比表面積は1000m²/g以上に達することもあり、この広大な表面積が大容量化の鍵となっています。
参考)DLCAP基礎知識|日本ケミコン株式会社

電極の構造は、円筒状に巻き取った捲回タイプと、層を重ねた積層タイプ(コイン型)の2種類が主流です。さらに大容量を実現するため、複数の電気二重層キャパシタを並列または直列接続したモジュール製品も開発されています。
参考)https://jp.rs-online.com/web/content/discovery/ideas-and-advice/electric-double-layer-capacitors-guide

活性炭の細孔構造は、電極の有効表面積と密接な関係があります。細孔はマクロ孔、メソ孔、ミクロ孔に大別され、それぞれの大きさが電解質イオンとの相互作用に影響を与えます。特に0.7nm付近のミクロ孔が静電容量を高める可能性があることが研究で明らかになっています。
参考)異なる細孔物性の活性炭を用いた電気二重層キャパシタに関する研…

日本ケミコンの電気二重層キャパシタ基礎知識(構造と原理の詳細説明)

電気二重層キャパシタの充放電原理とエネルギー密度

電気二重層キャパシタの動作原理は、電極に電圧をかけると電極表面に電解液のイオンが吸着し、電気二重層を形成することにあります。この電気二重層は、電解液と電極の界面に極めて短い距離を隔てて電荷が配向する現象を利用しており、物理的に電荷を貯えるのが特徴です。
参考)電気二重層キャパシタの構造|日本ケミコン株式会社

通常のアルミ電解コンデンサが誘電体(絶縁物)を挟んだ電極に電圧を印加して双極子を配向させるのに対し、電気二重層キャパシタは誘電体を持たず、電極と電解液の界面がナノメートルオーダという極めて近い距離で電荷を蓄積します。この距離の近さが大容量を実現する一方で、大きな耐圧を得ることが難しいという課題もあります。
参考)電気二重層コンデンサを用いたバッテリー「スーパーキャパシタ」…

エネルギー密度の観点では、電気二重層キャパシタはアルミ電解コンデンサの約1000倍以上、二次電池の1/10程度に位置づけられます。出力密度(瞬間的に取り出せる電力の大きさ)では二次電池より優れている一方、エネルギー密度(単位重量または容積あたりに蓄えられるエネルギーの量)では劣ります。
参考)電気二重層コンデンサ メーカー19社 注目ランキングhref="https://metoree.com/categories/electric-double-layer-capacitor/" target="_blank">https://metoree.com/categories/electric-double-layer-capacitor/amp;製品価…

充放電の仕組みは、イオンの移動によるものであり、電池と異なり化学反応を伴いません。この非ファラデー過程により、化学的にエネルギーを貯蔵する二次電池と比較して大電流で急速な充放電が可能となり、充放電による劣化が少なく長寿命を実現しています。
参考)電材用

電気二重層キャパシタと二次電池の比較・蓄電デバイスとしての位置づけ

電気二重層キャパシタと二次電池の最も大きな違いは、化学反応が起きるか否かにあります。二次電池は充放電時に化学反応を伴うのに対し、電気二重層キャパシタは物理的な電荷の吸着のみで化学反応を伴いません。
参考)⑥エネルギー化学特論

性能比較の面では、以下のような特徴があります。

項目 電気二重層キャパシタ 二次電池
エネルギー密度 低い(二次電池の1/10程度)

高い
参考)アルミ電解コンデンサと電気二重層コンデンサの容量の違いなど

出力密度 高い(瞬間的に大電力を取り出せる)

低い
参考)電気二重層キャパシタと蓄電デバイスの比較|日本ケミコン株式会…

充放電速度 非常に速い

比較的遅い
参考)第5回:キャパシタ・コンデンサって何? ~電池と何が違うの?…

サイクル寿命 極めて長い(数十万回以上) 短い(数千回程度)​
使用温度範囲 広い

狭い
参考)https://www.inpit.go.jp/blob/katsuyo/pdf/chart/fdenki29.pdf

完全放電 可能 困難​

電気二重層キャパシタは、アルミ電解コンデンサと二次電池の中間的な性質を持つ蓄電デバイスとして位置づけられます。より多くのエネルギーを必要とする用途では二次電池が適している一方、瞬間的な充放電や大電流による充放電、その繰り返しへの耐久性が求められる用途では電気二重層キャパシタが向いています。​
内部抵抗(等価直列抵抗:ESR)が小さく、良好な充放電特性が得られることも大きな利点です。また、電気二重層キャパシタは完全放電が可能であり、全エネルギーを放出できない二次電池に比べると、蓄電量に対して取り出せるエネルギーの割合が高くなっています。​
日本ケミコンによる電気二重層キャパシタと蓄電デバイスの詳細比較

電気二重層キャパシタの用途と実用化事例

電気二重層キャパシタは、その特性を活かして幅広い分野で実用化されています。主な用途を以下にまとめます:​
電力貯蔵と安定化

  • 道路鋲(太陽光発電+LED):配線レスとメンテナンスフリーを実現​
  • 交通情報収集端末(太陽光発電+センサー):独立電源システムとして活用​
  • 大型瞬低対策装置:短時間大電力の瞬低対策に貢献​

バックアップ電源

エネルギー回生

  • 鉄道車両(新幹線など):回生ブレーキによる発電電力を蓄電​
  • ハイブリッド型トランスファークレーン:ディーゼルエンジンの小型化と省エネ化を実現​
  • 電動式フォークリフト:バッテリーアシストによる稼働時間改善​

電源アシスト

特筆すべき実用例として、マツダの「アテンザ」「アクセラ」「CX-5」などに車載用電気二重層キャパシタモジュールが搭載されています。また、再生可能エネルギー発電所では、リチウムイオン電池に流れ込む電流量を一定にするためのバッファとして活用されています。
参考)日本ケミコン 展示ハイライト - 自動車産業ポータル マーク…

TDKによる電気二重層キャパシタの用途解説(ハイブリッド車などへの応用)

電気二重層キャパシタの寿命特性とリチウムイオンキャパシタとの違い

電気二重層キャパシタの寿命は有限ですが、化学反応を伴わないため二次電池と比較して極めて長い特性を持ちます。寿命は温度、湿度、振動などの環境条件や、印加電圧、充放電条件などの電気的条件に影響を受けます。
参考)電気二重層キャパシタの寿命性能|日本ケミコン株式会社

温度と寿命の関係は非常に重要で、使用される周囲温度により大きく影響を受けます。実使用時の温度を低く設定すれば、長期の寿命を期待できます。一般的に、温度を10℃下げることによって期待寿命は2倍になるとされており、レイアウトや換気の配慮で周囲温度を低減することが推奨されます。
参考)https://edn.itmedia.co.jp/edn/articles/2106/25/news007_3.html

耐久性試験では、温度60℃で2000時間、または70℃で1000時間、定格電圧を印加し、外観・静電容量・内部抵抗で要求性能が規定されます。経時的に容量は減少し、内部抵抗は増大していきますが、適切な使用条件下では数十万回以上の充放電サイクルに耐えることができます。
参考)https://miyazaki-u.repo.nii.ac.jp/record/5097/files/honbun.pdf

リチウムイオンキャパシタ(LIC)との比較では、構造と性能に明確な違いがあります。リチウムイオンキャパシタは、正極に電気二重層キャパシタと同じ活性炭電極を、負極にリチウムイオン電池と同じ炭素系電極を使用しています。この構造により、従来の電気二重層キャパシタに比較して高いエネルギー密度を有し、リチウムイオン電池に比較して出力密度が大きいという特徴を持ちます。​
リチウムイオンキャパシタは電気二重層キャパシタの正極とリチウムイオン二次電池の負極を組み合わせた構造によって、キャパシタの特長である充放電スピードの速さや劣化しにくいという利点を維持しつつ、エネルギー密度を向上させています。エネルギー分野での幅広い利用が期待されており、電気二重層キャパシタとリチウムイオン電池の中間的な位置づけとして注目されています。
参考)https://www.jsr.co.jp/rd/report/pdf/tec116-6.pdf

日本ケミコンによる電気二重層キャパシタの寿命性能詳細