電磁誘導の仕組みと磁束変化による発電原理

電磁誘導は磁束の変化でコイルに電流が生じる現象です。ファラデーの法則やレンツの法則はどのような原理で、発電機やモーター、IH調理器などの身近な製品にどう応用されているのでしょうか?

電磁誘導の仕組みと原理

この記事のポイント
電磁誘導とは

コイルを貫く磁束が変化すると起電力が発生する現象

📐
基本法則

ファラデーの法則とレンツの法則が起電力の大きさと向きを決定

🔧
実用化

発電機、モーター、IH調理器、ワイヤレス充電など幅広く応用

電磁誘導の仕組みとコイルの磁束変化

 

電磁誘導とは、コイルを貫く磁束が時間的に変化することで、コイルに起電力が発生する現象です。この現象は1831年にマイケル・ファラデーによって発見されました。コイルの内部には磁場が存在し、その磁力線がコイルを通過している状態を磁束と呼びます。

 

参考)電磁誘導とは

磁束の変化を引き起こす方法は複数あります。最も基本的なものは、コイルに磁石を近づけたり遠ざけたりすることです。磁石をコイルに近づけると、磁石の磁場(磁束線)がコイルの中に入り込み、コイル内部の磁場が増加します。逆に磁石を遠ざけると磁束が減少します。このように磁束が変化した時だけ、コイルに起電力が発生するのが電磁誘導の特徴です。

 

参考)電磁誘導とレンツの法則

磁束変化の速度を上げることで、誘導起電力はより大きくなります。コイルが磁場内をより速く動くと、磁力線を切る速度(磁束の変化率)が増し、結果として誘導される起電力が増大します。この性質は発電機などの実用機器で重要な役割を果たしています。

 

参考)モーターの発電原理

💡 電磁誘導が起こる条件

  • コイルを貫く磁束が変化していること
  • 磁石やコイルが相対的に動いていること
  • 磁場の強さが時間的に変化していること

電磁誘導におけるファラデーの法則

ファラデーの電磁誘導の法則は、コイルに生じる誘導起電力の大きさを定量的に表す法則です。この法則によれば、コイルを貫く磁束の時間的変化量とコイルの巻き数に比例して誘導起電力が生じます。

 

参考)ファラデーの法則、レンツの法則とは?3つの違いをまとめ! –…

具体的な式で表すと、N回巻きのコイルでΔt秒間にΔΦ(Wb:ウェーバー)の磁束が変化した時の誘導起電力の大きさe(V:ボルト)は、e = N × ΔΦ / Δt となります。この式から、コイルの巻き数が多いほど、また磁束の変化が速いほど、大きな起電力が得られることが分かります。

 

参考)https://misato-th.spec.ed.jp/cabinets/cabinet_files/download/895/414ae61be1c5407b2ca559c3f21a81d6?frame_id=463

ファラデーの法則は主に誘導起電力の大きさに関する法則です。コイルの巻き数を増やすことで起電力を強化できるため、発電機や変圧器などの設計において重要な指針となっています。磁束の変化率が大きいほど誘導起電力も大きくなるという関係性は、高効率な発電システムの開発に欠かせない原理です。

 

参考)電磁誘導の法則まとめ(原理・ファラデー則・コイル)

⚙️ ファラデーの法則の要点

  • 誘導起電力はコイルの巻き数に比例
  • 誘導起電力は磁束の変化率に比例
  • 発電機や変圧器の設計に応用される基本原理

電磁誘導におけるレンツの法則

レンツの法則は、電磁誘導によって生じる誘導起電力の向きを決定する法則です。この法則は1834年にハインリヒ・レンツによって発見されました。レンツの法則によれば、誘導起電力によって流れる電流が作る磁束は、元の磁束の増減を妨げる向きに生じます。

 

参考)電磁誘導とレンツの法則

コイルに磁石を近づけると、コイル内部の磁束が増加します。このときコイルは、磁束の増加を防ごうとして自ら磁場を作り出します。具体的には、誘導起電力によって自分自身に電流を流し、磁石の磁場に対抗する磁場を生み出すのです。逆に磁石を遠ざけると、コイルは磁束線が減るのを防ごうとして、元の磁場と同じ向きの磁場を作り出します。

この「あまのじゃく」な性質こそが、レンツの法則の本質です。コイルは内部の磁場変化に対して常に抵抗し、変化を妨げる方向に電流を流します。ファラデーの法則とレンツの法則を組み合わせると、e = -N × ΔΦ / Δt という式で表され、マイナス符号がレンツの法則(磁束の変化を妨げる向き)を示しています。

🔄 レンツの法則の働き

  • 磁束が増加→増加を妨げる向きに電流が流れる
  • 磁束が減少→減少を妨げる向きに電流が流れる
  • エネルギー保存則と整合する自然の法則

電磁誘導を利用した発電機とモーターの原理

発電機は電磁誘導の仕組みを利用して、機械的エネルギーを電気エネルギーに変換する装置です。発電機では、磁場の中でコイルを回転させることで、コイルを貫く磁束密度が変化し、起電力が発生して電流が流れます。実際の発電機では、コイルではなく磁石のほうを回転させる構造が一般的です。

 

参考)直流と交流~電気の基礎と電磁気学~

モーターは発電機とは逆の原理で動作します。モーターではローレンツ力(フレミングの左手の法則)の仕組みを利用して、磁場と電流により力を生み出します。磁場の中にあるコイルに電流を流すことで、コイルが回転し動力を得られます。

興味深いことに、モーターは電気エネルギーを動力に変換する一方で、逆に電磁誘導によって機械的エネルギー(運動)を電気エネルギーに変換することもできます。モーターの発電作用は電磁誘導によるもので、フレミングの右手の法則に則り、磁束の中を導線が運動することで導線に起電圧が発生し電流が流れます。発電目的には発電に最適化された発電機を利用しますが、モーターと発電機は基本的に同じ電磁誘導の原理に基づいています。

発電機とモーターの比較

装置 エネルギー変換 利用する法則 動作原理
発電機 機械→電気 電磁誘導(ファラデー) コイルor磁石を回転させて磁束変化を生み出す
モーター 電気→機械 ローレンツ力(フレミング左手) 磁場中のコイルに電流を流して回転力を得る

電磁誘導のIH調理器への応用

IH調理器(Induction Heating:電磁誘導加熱調理器)は、電磁誘導の仕組みを利用した現代的な調理器具です。IH調理器はファラデーの電磁誘導の法則によって、加熱対象である鍋底に渦電流を誘導させます。加熱コイルに電流が流れるとコイルから磁力線が発生し、その磁力線によって発熱体である鍋底にうず電流が発生し、鍋底自体が発熱する仕組みです。

 

参考)誘導加熱(IH)とは

IH調理器の最大の特徴は、火を使わずに調理できる安全性です。燃焼排ガスの発生がなく、排熱も少ないため、厨房内の温度上昇を抑えられます。また、燃焼に伴うススなどの発生がないため、汚れが少なく清潔な厨房環境を保つことができます。

 

参考)誘導加熱-12

熱効率が非常に高いこともIH調理器の利点です。鍋などの被加熱物がトッププレートにのっていないときは電力を消費しない特性があり、省エネルギー、省コストが図れます。加熱時間の短縮、正確な温度制御、表面温度の低下といった利点もあり、安全性と清潔性が向上し、食品の焦げ付きを防ぎます。出力は数値による設定が可能で、調整範囲も広く、操作性にも優れています。

🍳 IH調理器のメリット

  • 火を使わないため安全で清潔
  • 熱効率が高く省エネルギー
  • 温度制御が正確で調理しやすい
  • 厨房の温度上昇を抑制

電磁誘導のワイヤレス充電技術への応用

ワイヤレス充電は、電磁誘導の原理を応用した便利な充電技術です。この技術は「磁石同士を近づけると磁界が発生して電流が流れる」という電磁誘導の基本原理を利用しています。現在普及しているワイヤレス充電規格「Qi(チー)」は、電磁誘導方式を採用しています。

 

参考)置くだけで充電ができる!便利なワイヤレス充電器の仕組み

ワイヤレス充電の仕組みは次のようになっています。まず、電気を送るワイヤレス充電器に「送電用のコイル」を、スマートフォンなど充電する側の端末に「受電用のコイル」を組み込みます。送電用のコイルに交流電圧をかけると磁界(磁束)が発生します。この磁界が発生した状態で受電用のコイルを近づけると、その磁界を打ち消すための誘導起電力が発生し、電流が流れて充電が行われます。

 

参考)https://www.elecom.co.jp/pickup/column/charger_column/00005/

電磁誘導方式は小型かつ低コストで実現できるため、ワイヤレス充電では一般的な方式となっています。電気が空気中に流れるのではなく磁界が発生するだけなので、危険性もありません。ただし、伝送距離が短いため、送電する側と受電する側との位置にずれがあると、きちんと充電できないという制約があります。

📱 ワイヤレス充電の特徴

  • 電磁誘導により非接触で充電可能
  • 充電器に置くだけで充電開始
  • 位置ずれに弱いが安全性は高い
  • スマートフォンを中心に普及

電磁誘導と鉱石処理における磁気分離

電磁誘導の応用として、鉱石処理における磁気分離技術も注目されます。磁気分離は、鉱物の磁気特性に基づいて鉱物を分離するために鉱物処理で広く用いられるプロセスです。様々な鉱物の磁化率の違いを利用して分離を実現します。

 

参考)鉱物加工における磁気分離 - 磁気の知識

採掘された鉱物に含まれる一般的な不純物の一つは、鉄、コバルト、ニッケルなどの金属です。磁気分離は、採掘された鉱物から金属不純物を除去する最も効果的な方法の一つとされています。このプロセスでは、鉱物の特性や化学反応を変えることなく、鉱物から金属を除去できます。

磁気分離の利点は、鉱石に含まれる金属を溶解するために長時間の化学反応を必要としないことです。炭素抽出、バイオリーチング、フロス浮選などの代替金属分離方法と比較して、磁気分離はコスト効率が高く、より速く、より効果的とされています。磁気分離の最も一般的な用途の一つは鉄鉱石の抽出で、鉄は幅広い製造用途で使用される必須金属です。

電磁石を用いた磁気分離装置では、電磁誘導の原理により強力な磁場を発生させ、磁性物質を選別します。磁気プーリーやコンベアの排出端に設置され、磁性物質を効率的に抽出できます。湿式磁気分離機はスラリー状の微粒子用に使用され、細かい鉱物の分離にも対応しています。

 

参考)https://www.prominetech.com/ja/news/how-does-magnetic-separation-work-in-mineral-processing/

⛏️ 鉱石処理での磁気分離

  • 電磁石により強力な磁場を生成
  • 鉄、コバルト、ニッケルなどの磁性物質を分離
  • 化学反応不要でコスト効率が高い
  • 鉄鉱石抽出などに広く利用

電磁誘導と振動発電の仕組み

電磁誘導は振動発電にも応用されています。振動発電とは、振動エネルギーを電気エネルギーに変換する技術で、電磁誘導の原理を用いたものです。モーターを使った発電も電磁誘導の原理を用いており、同様の仕組みが振動発電にも適用されています。

 

参考)振動発電とは 原理と実用例を解説 - Orbray MAGA…

電磁誘導による起電力(誘導起電力)の大きさは、磁束の変化の速度に比例します(ファラデーの電磁誘導の法則)。また、起電力によって起こる電流の方向は磁束の変化を妨げる方向に流れます(レンツの法則)。振動発電では、この二つの法則を組み合わせて、機械的な振動を電気エネルギーに効率的に変換します。

振動発電は、環境中に存在する様々な振動源からエネルギーを回収できるため、IoT機器の自立電源やウェアラブルデバイスの電力供給源として期待されています。歩行時の振動、機械の振動、橋梁の振動など、日常的に発生する振動を電力に変換することで、バッテリー交換の手間を減らし、持続可能なエネルギー利用が可能になります。

🔋 振動発電の特徴

  • 環境中の振動を電気に変換
  • ファラデーとレンツの法則を応用
  • IoT機器の自立電源として有望
  • 持続可能なエネルギーハーベスティング技術

電磁誘導とファラデーの法則・レンツの法則の詳細解説 - SimScale
電磁誘導の基本原理から数式による定量的な理解まで、図解付きで詳しく解説されています。

 

モーターの発電原理とフレミングの右手の法則 - ROHM
モーターがどのように電磁誘導によって発電作用を示すか、図を用いて分かりやすく説明されています。

 

IH調理器の仕組みと電磁界の安全性 - 電磁界情報センター
IH調理器の種類や誘導加熱の詳細な仕組み、発生する磁界の大IH調理器の種類や誘導加熱の詳細な仕組み、発生する磁界の大きさについて科学的な見解が掲載されています。

 

 


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