
ビッカース硬度(HV)とロックウェル硬度(HRC)の換算は、金属材料の評価において頻繁に必要とされる作業です。換算表を使用することで、異なる試験方法で得られた硬度値を相互に比較できます。例えば、ビッカース硬度HV300は、ロックウェルCスケールでおよそHRC29.8に相当します。
参考)https://www.silicolloy.co.jp/lookup_table/hardness_conversion_table/
換算は主に鋼材を対象としており、材質によって換算値には多少の誤差が生じることを理解しておく必要があります。特に鋼以外の材料に対しては、標準的な換算表をそのまま適用できない場合があるため注意が必要です。換算表には引張強さやショア硬度も併記されており、総合的な材料評価の参考になります。
参考)硬度換算表|資料|アクセスエンジニアリング株式会社
硬度換算の精度を高めるには、測定条件を統一し、複数点での測定値を平均化することが推奨されます。また、換算はあくまで近似値であることを念頭に置き、重要な用途では実測値を優先すべきです。
参考)熱処理Vol.9〈硬度の換算とは〉│理化工業株式会社 技術用…
ビッカース硬度試験は、ダイヤモンド製の正四角錐圧子(対面角136度)を試料表面に押し込み、できたくぼみの対角線長さから硬度を算出する方法です。測定荷重は10gfから100kgfまで幅広く設定でき、微小硬度から大型試料まで対応可能です。
参考)硬さ試験
この試験法の最大の利点は、非常に硬い材料から柔らかい材料まで測定できる汎用性の高さです。圧子にダイヤモンドを使用しているため、超硬合金や表面硬化処理された鋼材、溶接部の硬さ分布測定にも適しています。薄い試料や小さな部品にも対応できるため、精密部品の品質管理に重宝されます。
参考)鉱物の硬度を理解する:モース硬度計から最新の超硬材料まで
測定時の注意点として、くぼみの対角線長さの測定誤差が硬度値に直接影響することが挙げられます。対角線長さの測定誤差1%は、ビッカース硬度の誤差2%に相当するため、顕微鏡での標線合わせは慎重に行う必要があります。試験片の表面は研磨して平滑にし、圧痕が明瞭に観察できる状態にすることが重要です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe/75/10/75_10_1183/_pdf
ロックウェル硬度試験は、圧子を2段階の荷重で押し込み、くぼみの深さから硬度を求める迅速な試験方法です。基準荷重でくぼみを作った後、試験荷重を加えて圧痕を深くし、その深さの差から硬度値を直接読み取ります。
参考)ロックウェル硬さ試験 (HR) - 金属の迅速な硬さ試験
試験スケールは全30種類あり、材料の種類や硬さに応じて使い分けられます。最も一般的なのはCスケール(HRC)で、焼入れ鋼や硬質鋳鉄などの硬い材料に使用されます。Bスケール(HRB)は銅合金や軟鋼に、Aスケール(HRA)は超硬合金や薄鋼板に適しています。
Struers社の公式ページには、各スケールの詳しい適用範囲と圧子・荷重の組み合わせが解説されています
ロックウェル試験の利点は測定時間が短く、光学装置での読み取りが不要な点です。ただし、試験機のアンビル(試料載台)や試料裏面の状態が測定精度に大きく影響するため、設置面の平滑性確保が必須です。くぼみ深さの誤差を防ぐため、硬さ基準片による目合わせを定期的に行うことが推奨されます。
参考)ロックウェル硬さ試験|測定手順/方法・表記一覧を解説 - 株…
硬度換算は材料の種類によって精度が大きく変わります。標準的な換算表は主に鋼材を対象に作成されているため、非鉄金属や非金属材料では大きな誤差が生じる可能性があります。例えば、アルミニウム合金や銅合金では、鋼材用の換算表をそのまま適用すると10%以上の誤差が発生することがあります。
参考)金属の硬さをショアとかビッカースとか言われているのを聞いたこ…
測定誤差の主な要因は、試料の表面状態、荷重保持時間、圧子の摩耗状態などです。表面が粗いと圧痕の輪郭が不明瞭になり、対角線長さの測定精度が低下します。また、熱処理による硬度分布のばらつきや、材料の異方性も換算精度に影響します。
参考)硬さとは│金属材料の硬さ試験方法、測定時の注意事項など │ …
換算値を使用する際は、測定条件(荷重、保持時間、温度)を明記し、あくまで参考値として扱うべきです。特に品質保証や規格適合性の判定では、換算値ではなく規定された試験方法で直接測定した値を使用することが原則です。複数の試験方法で測定して相互確認することで、データの信頼性を高めることができます。
鉱物の硬度評価では、モース硬度とビッカース硬度という異なる尺度が使用されます。モース硬度は10種類の標準鉱物を用いた相対的な引っかき傷への耐性を示すのに対し、ビッカース硬度は押込み圧力に対する絶対的な堅牢さを数値化したものです。
参考)宝石の硬度 モース硬度 ビッカース硬度 ヌープ硬度について
モース硬度1の滑石はビッカース硬度HV50程度ですが、モース硬度10のダイヤモンドはHV10,000以上にも達し、両者の関係は非線形です。モース硬度7の石英(HV1,100程度)と、モース硬度8のトパーズ(HV1,400程度)の差は小さいですが、モース硬度9のコランダム(HV2,000程度)からダイヤモンドへは飛躍的に硬度が上昇します。
参考)宝石の硬度一覧表~モース硬度とビッカース硬度について
宝石専門サイトには、主要鉱物のモース硬度とビッカース硬度の対照表が詳しく掲載されています
鉱物研究や宝石産業では、モース硬度による簡易判定とビッカース硬度による精密測定を組み合わせて使用します。フィールドワークでは携帯性に優れるモース硬度試験が便利ですが、研究室での詳細分析にはビッカース試験が適しています。鉱物の異方性(結晶方向による硬度の違い)を評価する際は、複数方向でのビッカース測定が有効です。