バストネサイトとは希土類元素鉱物モナズ石産地用途

バストネサイトとは希土類元素を含む炭酸塩鉱物で、現代のハイテク産業に欠かせない重要な資源です。セリウムやランタンを豊富に含み、触媒や研磨剤など多様な用途に利用されていますが、その特徴や産地をご存知ですか?

バストネサイトとは希土類元素鉱物

バストネサイトの基本情報
⚗️
化学組成

希土類元素を含む炭酸塩・フッ化物鉱物で、組成式は(Ce,La)CO₃Fで表されます

💎
物理的性質

硬度4~4.5、樹脂光沢を持ち、黄色から橙色の色調が特徴的です

🌍
産業的重要性

世界の希土類供給において、モナズ石と並ぶ二大鉱石資源として位置づけられます

バストネサイトの化学組成と鉱物特性

バストネサイトは希土類元素を含む炭酸塩鉱物であり、フッ化物でもある特殊な鉱物です。基本的な化学組成式は(Ce,La)CO₃Fで表され、セリウムやランタンといった軽希土類元素を主成分としています。この鉱物には含まれる希土類元素の種類によって複数の変種が存在し、セリウムバストネス石(bastnäsite-(Ce))、ランタンバストネス石(bastnäsite-(La))、ネオジムバストネス石(bastnäsite-(Nd))、イットリウムバストネス石(bastnäsite-(Y))の4種類が記載されています。

 

参考)バストネサイト - Wikipedia

産出するバストネス石のほとんどはセリウムバストネス石であり、セリウムはこの類の鉱物の中で最も豊富に存在する希土類元素です。実際、元素セリウムはウィルヘルム・ヒージンガーによってスウェーデンのバストネス鉱山産の本鉱から初めて発見されており、希土類化学の歴史において重要な位置を占めています。鉱物名もこの発見地であるスウェーデン・ヴェストマンランド地方のバストネス鉱山(Bastnäs)に由来して命名されました。

 

参考)バストネサイト石 - Patrick Voillot

バストネサイトの物理的性質として、モース硬度は4~4.5と比較的軟らかく、樹脂光沢を持ちます。色は黄色から橙色、茶色まで変化し、透明から半透明の結晶として産出します。屈折率は1.720~1.820で、複屈折率は0.100と強い一軸性を示します。比重は4.78~5.20と重く、これは希土類元素を多く含むことに起因しています。

化学的特徴として、バストネス石は炭酸塩鉱物でありながら希塩酸には溶けず、熱濃塩酸に溶けるという特異な性質を持っています。この特性は鉱石処理や分離プロセスにおいて重要な指標となり、モナズ石などの他の希土類鉱物との識別にも利用されています。

 

参考)バストネサイトとは - わかりやすく解説 Weblio辞書

バストネサイトの産地とカーボナタイト鉱床

バストネサイトは花崗岩、閃長岩、ペグマタイト、カーボナタイト、プロピライトなどの火成岩や変質岩中に存在します。特にカーボナタイト鉱床は希土類元素が濃集する重要な地質環境として知られています。カーボナタイトとは地下50~200kmのマントル上部で生じた溶融マグマが地殻付近まで上昇して固化した火成炭酸塩岩で、マグマ形成時に周囲のチタン鉱物などから希土類元素が取り込まれます。

 

参考)https://lapisps.sakura.ne.jp/gallery11/821bastnasite.html

ランタノイド元素は原子半径が大きいため、マグマが固化する過程で最後まで残液中に留まって濃集し、地表付近でバストネス石として晶出すると考えられています。カーボナタイト鉱床では造岩鉱物として散点状に含まれるバストネサイトが希土類資源となり、方解石、重晶石、石英などの脈石鉱物を伴って産出します。

 

参考)https://www2.city.kurashiki.okayama.jp/musnat/geology/tisitugensho/koushou/koushoubetu/carbonatite.html

世界で最も有名なバストネサイト鉱床は、アメリカ・カリフォルニア州のマウンテンパス鉱山です。この鉱山はラスベガスから約200km南西、ネバダ州との州境近くに位置し、1949年4月23日にH.S.ウッドワードによってウラン探査中に発見されました。発見者の誕生日だったことから「バースデー鉱区」と名付けられ、比重の重い岩脈がバストネス石であることが判明しました。

マウンテンパス鉱山では相次いで発見された鉱区を鉱山会社が買い取り、1952~54年頃から稼働を始めました。方解石や重晶石などのカーボナタイト起源の母岩に含まれるバストネス鉱の品位は局所的に40%を超え、希土類の配分はセリウム約50%、ランタン約30%、ネオジム14.3%、プラセオジム4.4%、サマリウム1.3%というデータがあります。平均0.1%のユーロピウムを含み、基本的に軽希土類の鉱石であり、重希土類はこれらの数百~数千分の1程度しか含まれません。

倉敷市立自然史博物館のサイトでは、マウンテンパスのカーボナタイト標本の詳細な解説と画像が掲載されており、バストネス石を含むカーボナタイトの産状を理解するのに役立ちます
その他の産地としては、スウェーデンのバストネス鉱山が歴史的に重要で、パキスタンのジャジ地区では宝石質の透明なバストネサイト結晶が産出することで知られています。ギリシャのロクリス地方にあるニッシ(パティティラ)ボーキサイト・ラテライト鉱床でも、バストネサイトグループ鉱物の濃集が報告されています。

 

参考)https://www.mdpi.com/2075-163X/7/3/45/pdf?version=1490168661

バストネサイトとモナズ石の違い

バストネス石とリン酸塩鉱物のモナズ石は、世界における希土類元素の二大資源として位置づけられています。両者は希土類を含む点で共通していますが、化学組成と産状において明確な違いがあります。

化学組成の面では、バストネサイトは炭酸塩・フッ化物鉱物(Ce,La)CO₃Fであるのに対し、モナズ石はリン酸塩鉱物(Ce,La,Th)PO₄です。バストネサイトは炭酸塩でありながら希塩酸には溶けず熱濃塩酸に溶けるという特性を持ちますが、モナズ石は硫酸による分解処理が一般的です。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kogyobutsurikagaku/43/5/43_238/_pdf

産状においても違いがあり、バストネサイトは主にカーボナタイト鉱床や花崗岩質ペグマタイトに産出します。一方モナズ石は、イルメナイトやジルコンなどとともに砂鉱床に産出することが多く、磁選や比重選鉱により分離されます。バストネサイトは重晶石、石英、方解石などを随伴するため、浮遊選鉱や酸洗により脈石分離が行われます。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kogyobutsurikagaku/39/5/39_462/_pdf/-char/ja

希土類元素の組成パターンにおいても差異があり、カーボナタイトに産するバストネサイトとモナズ石は典型的に軽希土類(LREE)に富むパターンを示します。ただしモナズ石にはトリウムを含有するものもあり、放射性元素の扱いという点で処理プロセスに違いが生じます。

 

参考)https://www.gsj.jp/data/chishitsunews/06_08_01.pdf

鉱石処理技術の観点では、モナズ石は磁選・比重選鉱などの物理選別が主体となるのに対し、バストネサイトは浮遊選鉱と酸洗による化学的分離が重視されます。これらの違いにより、鉱山ごとに採用される精錬プロセスが異なり、最終的に得られる希土類製品の純度や組成も変化します。

バストネサイトの用途と希土類元素の利用

バストネサイトから得られる希土類元素は、現代のハイテク産業において不可欠な戦略的資源として位置づけられています。希土類元素が持つ独特の電子構造は、光学的、磁気的、電気的、化学的な特性を提供し、再生可能エネルギー、軍事装備、永久磁石、触媒、冶金、合金、セラミックス、石油化学など多岐にわたる分野で利用されています。

 

参考)https://www.mdpi.com/1420-3049/29/3/688/pdf?version=1706801847

バストネサイトに豊富に含まれるセリウムは、研磨剤や酸化セリウムとしてガラス消色剤に広く使用されています。20世紀後半に入ると新たな用途が次々と見出され、酸化ランタンを入れた高屈折ガラス、FCC触媒(流動接触分解触媒)、自動車の排ガス触媒などで重要な役割を果たすようになりました。

ネオジムは永久磁石の製造に欠かせない元素で、特に電気自動車やハイブリッド車のモーター、風力発電機、コンピューターのハードディスクドライブなどに使用されています。プラセオジムも磁石の性能向上に寄与し、ネオジムと組み合わせて高性能磁石の製造に利用されます。

ランタンは充電池の電極材料として利用されるほか、カメラレンズなどの光学ガラスに添加され、高い屈折率と低い分散特性を実現します。サマリウムはサマリウム・コバルト磁石として高温環境下で使用される磁石材料に、ユーロピウムは蛍光体材料として液晶ディスプレイやLED照明の赤色発光に利用されています。

農業・畜産分野でも希土類元素の応用が進められており、飼料添加物や土壌改良材として研究が行われています。医療分野では、特にがんの診断と治療において希土類元素の利用が拡大しており、MRI造影剤や放射性同位体治療に応用されています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10856286/

宝石質の透明なバストネサイト結晶は極めて稀少で、レアストーンコレクターの間で珍重されています。パキスタンのジャジ地区などで採掘される透明結晶は、照らす光の性質によって変色効果を見せ、白熱灯下では黄色に、赤熱灯下ではオレンジ色になるという光学的特性を持ちます。

 

参考)https://item.rakuten.co.jp/jewelclimb/c/0000001314/

バストネサイト鉱床の形成メカニズムと地質学的意義

バストネサイト鉱床の形成には、マントル深部から上昇する特殊なマグマプロセスが関与しています。カーボナタイトは地下50~200kmのマントル上部で生じた溶融マグマが地殻付近まで上昇して固化した火成炭酸塩岩であり、一般的な珪酸塩マグマとは異なる化学組成を持つ特異な岩石です。

マグマが地下深部で形成される際、周囲のペロブスカイトやチタン鉱物などに微量含まれていた希土類元素が炭酸塩質マグマ中に選択的に取り込まれます。希土類元素、特にランタノイドはイオン半径が大きいため、珪酸塩鉱物の結晶格子に入りにくく、マグマが冷却・結晶化する過程で最後まで液相中に残留します。この「不適合元素」としての性質により、最終的な晶出段階でバストネサイトとして濃集する仕組みとなっています。

カーボナタイトマグマが上昇する過程では、周囲の岩石との反応や温度・圧力の変化により、段階的に異なる鉱物が晶出します。初期段階では方解石や苦灰石などの炭酸塩鉱物が主体ですが、希土類元素の濃度が上昇すると共にバストネサイト、パリス石、モナズ石、くさび石、褐れん石などの希土類含有鉱物が形成されます。

マウンテンパス鉱床では、これらの希土類鉱物がカーボナタイトの脈状構造として産出し、母岩中に散点状あるいは濃集帯として分布しています。鉱床の規模や品位は、マグマの化学組成、上昇速度、周囲岩石との相互作用、冷却速度などの要因によって決定されます。

地質学的には、カーボナタイトとバストネサイト鉱床の形成は、プレートテクトニクスにおけるマントルプルームやリフト帯の活動と関連していると考えられています。東アフリカ地溝帯や古い大陸地殻の縁辺部にカーボナタイト複合岩体が多く分布することから、大陸分裂やマントル上昇流との関係が示唆されています。

 

バストネサイト鉱床の形成年代は、産地によって大きく異なります。マウンテンパス鉱床は約14億年前の先カンブリア時代に形成されたとされ、長い地質年代を経ても希土類元素が保持されていることが、これらの元素の地球化学的安定性を示しています。

 

バストネサイトの結晶構造と変色効果

バストネサイトは六方晶系(一部の文献では三方晶系と記載)に属し、六角形の板状結晶として産出することが特徴です。結晶構造は複雑で、希土類元素のイオンが炭酸基とフッ素イオンによって配位された層状構造を形成しています。この構造により、結晶の光学的性質や劈開性が決定されます。

バストネサイトの興味深い光学的特性として、照明の種類によって色が変化する変色効果(カラーチェンジ効果)があります。白熱灯の下では黄色に見える結晶が、赤熱灯や自然光の下ではオレンジ色に変化することが観察されています。この現象は、希土類元素の電子遷移による選択的な光吸収と、照明光源のスペクトル分布の違いによって生じます。

宝石質のバストネサイト結晶は透明から半透明で、樹脂光沢を持ちます。複屈折率が0.100と強いため、透明結晶を通して見ると像が二重に見える複屈折現象が観察できます。屈折率は1.720~1.820と高く、カットされた宝石では内部から反射される光によって輝きが生まれます。

蛍光性については、一般的なバストネサイトは紫外線下での蛍光を示さないとされています。ただし、含まれる希土類元素の種類や不純物の影響により、微弱な発光を示す試料も存在する可能性があります。特にユーロピウムを含む結晶では、赤色の蛍光が観察されることがあります。

バストネサイトの劈開は不明瞭で、破断面は不規則な形状を示し、小さな面が観察できる断口(conchoidal fracture)となります。モース硬度が4~4.5と比較的軟らかいため、宝石としての利用には注意が必要で、指輪などの摩耗しやすい用途には適していません。主にコレクションピースとして珍重されています。