
圧電効果は、1880年にノーベル物理学賞受賞者のピエール・キュリーと兄のジャック・キュリーが水晶の研究中に発見した現象です。水晶や特定のセラミックなどの圧電材料に圧力を加えると、その圧力に比例した電圧が発生します。この現象は、結晶格子内のイオンの配置が圧力によって変化することで生じる電気分極によるものです。
参考)https://www.tdk.com/ja/tech-mag/knowledge/089
通常の状態では、結晶内の陽イオンと陰イオンは三次元的に対称な位置に配置されており、電荷の偏りはありません。そのため空気中のイオンを吸着し、結晶表面の電荷は中和されているため電圧は発生しません。しかし外部から圧力が加わると、格子状の結晶が歪み、イオンの位置のずれが大きくなります。
参考)https://www.proengineer-institute.com/triz_kw078.html
この歪みによって結晶の一方の端がプラスの電気を帯び、もう一方の端がマイナスの電気を帯びる「電気分極」という現象が起こり、結果として電圧が発生するのです。圧電効果を利用すれば電源がない環境下でも電気を生み出せるため、ライターの点火装置や圧力センサーなどに幅広く応用されています。
参考)圧電効果(ピエゾ効果) - 電気主任技術者のナレッジノート
TDK公式サイトで圧電効果の詳しいメカニズムと身近な応用例を解説
圧電材料の電気分極発生メカニズムは、結晶構造内のイオン配置の変化に基づいています。圧力を受けていない状態では、結晶の中央に陽イオンが存在し、陽イオンと陰イオンの配置に偏りがないため帯電していません。
参考)圧電効果 - Wikipedia
しかし圧力を加えると結晶の格子が歪み、結晶格子を通る電気的変化の分離が生じます。この格子の歪みによってイオンの配置に偏りが発生し、電気分極が生まれることで片方の端が陽極に、もう片方の端が陰極に帯電します。物質が電気的にショートしていなければ、この電荷の変化は物質を通る電圧を誘導します。
参考)圧電効果 href="https://www.hodaka.co.jp/words/entry22400" target="_blank">https://www.hodaka.co.jp/words/entry22400amp;#8211; 用語集
圧電効果の大きさは材料によって異なり、鉛・ジルコニア・チタン水晶では元の長さの最大0.1%まで形状が変わります。イオン結晶やイオン性の強い結晶に力を加えると、表面にその力に比例した電流が生じるため、圧力の大きさを電気信号として検出することが可能になります。
圧電材料は主に水晶(石英)と圧電セラミックスに大別され、それぞれ異なる特性を持っています。水晶は自発的に圧電性を持つ天然の圧電材料で、あらゆる圧電素子の中で最良の長期安定性を示します。水晶はパイロ効果を示さず、小さく安定した熱係数を持つため、クォーツ時計の水晶振動子や表面弾性波フィルターなどに広く使用されています。
参考)圧電素子:水晶 vs セラミック
水晶は低静電容量のため高電圧を出力する特性があり(V=Q/C)、人工水晶は荷重センサにも採用されています。人工水晶はX軸方向に力が加えられた場合にのみ、その力に比例した分極が短時間だけ現れます。
参考)圧電式センサ
一方、圧電セラミックスの代表格であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)は、高い圧電定数と高いキュリー温度を持ち、比較的安価です。PZTを主体とする圧電セラミックは水晶と同じように電圧を加えると圧電効果を示し、固有の周波数において共振します。圧電セラミックは高い電荷出力を持つため、超音波トランスデューサーやアクチュエーターに適しています。
参考)https://edn.itmedia.co.jp/edn/articles/2110/28/news012.html
近年では、PMN-PT(ニオブ酸マグネシウム-チタン酸鉛)のような非常に高い圧電定数を持つ材料や、柔軟性と軽量性に優れたPVDF(ポリフッ化ビニリデン)などのポリマー系圧電材料も開発されています。
圧電効果は私たちの身の周りで数多くの製品に応用されています。最も身近な例は、ガスライターの点火装置です。電子式ライターは、衝撃を与えることで高電圧を発生する圧電素子を用いて火花放電を起こし、燃料のガスに着火させる構造になっています。圧力を加えて約10,000ボルトの高い電圧を発生することで、火花を発生させガスに着火します。
参考)ライターの構造はどうなっている?着火方式の違いごとに特徴を解…
圧電効果を利用したセンサーは、荷重、ひずみ、トルク、圧力、振動、AE(アコースティックエミッション)の測定用として広く使われています。塑性加工、切削加工、研削加工、接合加工などのプロセスの監視や制御、スイッチやバネの反力測定、コネクタの挿抜力測定による製品検査などにも用いられています。
圧電素子方式の圧力センサーは、特に瞬間的な圧力変化(動的圧力)の測定に適しており、振動や衝撃などの一時的な圧力を高い精度で検出できます。また、超音波診断装置、携帯電話用小型スピーカー、ハードディスク読み取り装置、超音波加湿器など、さまざまな電子機器にも圧電素子が組み込まれています。
参考)圧力センサーとは?仕組みや種類、用途、注意点と対策
さらに興味深い応用として、駅の改札や通路に設置する「発電床」があります。人が歩くときの圧力を利用して圧電素子で発電し、その電力を照明などに活用する実証実験が行われており、圧電素子の密度を高めて発電効率を向上させる工夫が続けられています。
松定プレシジョンで圧電素子の動作原理と多様な応用例を詳しく解説
圧電材料には、圧力を加えると電圧が発生する圧電効果とは逆に、電圧を加えると変形する「逆圧電効果」という現象も存在します。この逆圧電効果は、圧電効果が発見された翌年の1881年にリップマンにより熱力学の法則から数学的に導かれ、キュリー兄弟により実験的に確認されました。
参考)圧電(ピエゾ)素子とは?圧力をかけるとどうなるの?|ピエゾド…
逆圧電効果を利用した電子部品が圧電アクチュエータです。厚さ1mmの圧電セラミックス板に1,000V程度の電圧(1,000V/mmの電界)を加えると、逆圧電効果により約1μmの変位が得られます。圧電アクチュエータは、電圧を加えることで振動を起こす逆圧電効果を利用した振動デバイスです。
参考)https://jpn.nec.com/techrep/journal/g06/n05/pdf/t060519.pdf
圧電アクチュエータの特徴として、他のアクチュエータと比較して変位精度が高い、発生力が大きい、応答速度が速い、エネルギー効率が良いなどの利点があります。また比例制御が容易で、電磁ノイズが発生しないという長所もあります。
このような特徴を活かして、圧電アクチュエータは半導体製造装置の精密位置決め、光学系の微調整焦点合わせ、超音波加工機など、高精度が求められる産業分野で幅広く活用されています。積層圧電アクチュエータは、タッチパネルなどに触覚フィードバック(コツコツ感)を与える振動デバイスとしても利用されています。
参考)https://www.yuden.co.jp/jp/product/support/useful/download/upload/tydc_s_piezo_j_2306.pdf
圧電効果を持つ鉱石や材料を選ぶ際には、用途や要求性能に応じた特性を考慮する必要があります。最適な圧電材料を選択するポイントとして、必要な圧電定数の大きさ、動作温度範囲、機械的強度、コスト、柔軟性などが挙げられます。
超音波用途で高い感度が求められる場合は、PMN-PTのような高い圧電定数を持つ材料が適しています。一方、柔軟性が必要な場合は、PVDFのようなポリマー系材料が適しており、高温環境で使用する場合にはキュリー温度の高い材料を選択する必要があります。
天然の圧電鉱石である水晶は、トルマリンと並んで古くから知られる圧電材料です。水晶は優れた長期安定性と安定した熱係数を持つため、精密な周波数制御が必要な水晶振動子に最適です。水晶振動子はクォーツ時計や電子機器の基準発振器として不可欠な部品となっています。
参考)水晶振動子とは?原理や役割、用途について解説 │ 水晶振動子…
セラミックス系では、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)が広く使用されていますが、近年は環境への配慮から鉛フリーの圧電材料の研究開発も進められています。材料の選択にあたっては、圧電定数だけでなく、静電容量、温度特性、機械的品質係数なども総合的に評価することが重要です。
鉱石や結晶の品質も圧電効果の大きさに影響するため、結晶の純度、結晶方位、表面処理などの要素も考慮に入れる必要があります。圧電材料を効果的に活用するには、これらの特性を理解し、目的に応じた最適な材料を選択することが成功の鍵となります。

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