アクチノライト石綿は、繊維状を呈する角閃石系のアスベストの一種で、透閃石とも呼ばれる緑色の鉱物です。組成中の鉄分とマグネシウム分の相対比率で分類され、鉄分が10%超から50%までのものがアクチノライトに該当します。この鉱物は強度が高く耐熱性に優れているという特性を持ちますが、単独で使用されることは少なく、主にタルク(滑石)などの天然鉱物に不純物として混入する形で存在していました。
参考)毒性あり?アスベストの種類を一覧でレベル別や危険度別でまとめ…
日本国内では、秩父産のタルクにアクチノライトが含まれており、粉砕作業に従事していた労働者に石綿肺が発見された事例が労働省産業医学総合研究所によって報告されています。また、大阪府下のタイヤ製造工場では、打ち粉として使用されていたタルクにアクチノライトが含まれており、作業者の肺がん症例が確認されています。こうした健康被害の実態が明らかになったことで、平成20年(2008年)2月6日付けで、従来のクリソタイル・アモサイト・クロシドライトに加えて、アクチノライト・アンソフィライト・トレモライトの3物質が分析調査対象に追加されました。
参考)タルクと中皮腫・肺がんなどアスベスト関連疾患
厚生労働省通達では、石綿を「繊維状を呈しているアクチノライト、アモサイト、アンソフィライト、クリソタイル、クロシドライト及びトレモライト」と定義しており、これら6種類の鉱物の総称として石綿(アスベスト)と呼んでいます。アクチノライトは発がん性についてはクリソタイルほど高くはないものの、長期曝露を受けた場合には肺がんや中皮腫の発症リスクが高まる可能性があります。
参考)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/Qamp;A/
アスベスト含有建材は、発じん性(空気中に飛散する危険度)によってレベル1・レベル2・レベル3の3段階に分類されます。この分類は大気汚染防止法や石綿障害予防規則によって規定されており、建材レベルによって既存建築物の解体や改修工事における対応方法が異なります。
参考)https://www.m-seedstec.jp/%E5%B1%B1%E6%A2%A8%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%83%99%E3%82%B9%E3%83%88%E8%AA%BF%E6%9F%BB-%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%83%99%E3%82%B9%E3%83%88%E5%88%86%E6%9E%90/%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%83%99%E3%82%B9%E3%83%88%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/
レベル1:発じん性が著しく高い建材 💨
吹き付けアスベストが該当し、最も飛散性が高く危険度が高い建材です。建築基準法で規制されており、除去作業には厳重な隔離養生と負圧管理が必要です。作業期間は通常2週間から1か月程度を要し、専門業者による慎重な対応が求められます。アクチノライトを含む吹き付け材が確認された事案もあり、石綿曝露防止対策に万全を期す観点から分析調査の徹底が求められています。
参考)石綿(アスベスト)分析
レベル2:発じん性が高い建材 ⚡
成形建材が該当し、保温材・耐火被覆材・断熱材などが含まれます。破壊や加工時にアスベスト繊維が飛散するリスクが高まるため、湿潤化や飛散防止措置を行いながら除去作業を進めます。作業期間は1週間から2週間程度が目安です。
参考)アスベストのレベル1~3の違い:費用・注意点を詳しく解説
レベル3:発じん性が比較的低い建材 ✅
成形板等の石綿含有建材で、スレートボードや床タイルなどが該当します。割れにくい建材のため、注意して取り外しを行えば飛散リスクは低いとされています。作業期間は数日から1週間程度で、比較的短期間で工事が完了します。ただし、老朽化により劣化している場合は問題になる可能性があります。
参考)アスベストのレベル1・レベル2・レベル3の違い - 埼玉県で…
アクチノライトを含むアスベストのレベル別除去費用と期間について詳細な解説 - アクティブ岡山
アスベスト含有建材の判定基準は、法改正により段階的に厳格化されてきました。当初は1重量%を超える含有率が規制対象でしたが、平成18年(2006年)8月21日付けで0.1重量%に引き下げられました。さらに2006年の労働安全衛生法施行令の改正により、0.1重量%を超えるアスベスト製品の製造・輸入・譲渡・提供・使用が禁止され、2012年に猶予期間が終了して事実上全面的に禁止されています。
参考)アスベストの禁止はいつから?規制の歴史とそのとき起きた影響を…
この0.1%基準は、アクチノライトを含む6種類すべてのアスベストに適用されます。特に注意すべき点は、タルク・バーミキュライト(蛭石)・セピオライト・天然ブルーサイト・蛇紋岩といった天然鉱物を原料として使用した建材で、不純物として石綿が混入している可能性がある製品についても、含有率が0.1%を超えるものは規制対象となることです。
参考)よくあるご質問
分析方法については、JIS A 1481に基づく定性分析と定量分析があります。定性分析でアスベストの存在が確認された場合、事業者が0.1%を超えて含有しているものとして必要な措置を講ずるのであれば、定量分析は必ずしも必要ではありません。しかし、正確な含有率を把握するためには、JIS A 1481-3またはX線回折法による定量分析を実施することが推奨されます。
参考)https://www.eic.or.jp/qa/?act=viewamp;serial=39678
分析には偏光顕微鏡(PLM)、X線回折(XRD)、走査型電子顕微鏡(SEM)などの手法が用いられ、これらによりアスベストの有無・種類・含有率を明確に判定できます。特に偏光顕微鏡法は国際規格(ISO 22262-1)がJIS化された分析方法(JIS A 1481-1)で、鉱物が偏光に対して特有の光学的性質(多色性、複屈折、消光角、伸長性、屈折率)を示す特性を利用してアスベストの含有を判定します。
参考)アスベスト分析・調査 ISO/IEC17025 認定試験所 …
建材中の石綿含有率の分析方法等に係る留意事項について - 厚生労働省
アクチノライト石綿を含むアスベスト除去作業では、作業者の健康被害を防ぐための厳重な安全対策が不可欠です。2025年4月17日には大阪市北区のマンション解体工事現場で、アスベスト除去作業で使用した有機溶剤を吸った作業員3人が搬送され、うち1人が死亡する事故が発生しており、適切な対策の重要性が改めて認識されています。
参考)アスベスト除去作業現場での事故対策
作業計画の徹底 📋
詳細な作業手順、使用する保護具、緊急時の対応などを明記した作業計画を作成し、作業者全員に周知徹底する必要があります。作業前のミーティング(KY活動など)で危険予知や役割分担を確認し、計画変更時には速やかに全員に情報を共有します。
保護具の適切な着用 🛡️
呼吸用保護具としては、指定防護係数(APF)20以上の適切なものを使用する必要があり、電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)や全面形・半面形面体と高性能フィルターの組み合わせが推奨されます。保護衣はタイベック®などの使い捨て式を着用し、作業後は適切に処理します。その他、耐透過性のある保護手袋、密閉性の高い保護メガネ、滑りにくく踏み抜き防止機能のある安全靴の着用が必須です。
参考)建設現場でのアスベスト除去に関する安全対策
作業環境の管理 🏗️
作業場所をビニールシートなどで完全に隔離し、粉じんの飛散を最小限に抑える隔離養生を行います。負圧管理により外部への漏洩を防ぎ、作業前にアスベスト含有建材を十分に湿らせて粉じんの発生を抑制する湿潤化が重要です。集じん・排気装置を適切に設置し、作業環境の空気を常に清浄に保ちます。
アスベスト除去作業現場での基本的な事故対策と保護具の詳細 - メジャリング
タルク(滑石、含水珪酸マグネシウムMg3Si4O10(OH)2)は、生成過程で不純物としてアスベストが混入することがある天然鉱物です。蛇紋石系のアスベストであるクリソタイルはタルクと同種の成分(マグネシウム、ケイ素、酸素、水素)からなり、安定領域がタルクと接しているため共存することがしばしばあります。さらに、不純物としてカルシウムや鉄を含んでいる場合には、トレモライト、アクチノライト、アンソフィライトなど角閃石系のアスベストも共存します。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2006/064021/200635022A/200635022A0001.pdf
国内産や中国産のタルクの一部には、トレモライト/アクチノライトを含有していたことがあり、タルクはゴム・タイヤ製造での打粉剤や農薬の増量材など幅広く使用されてきました。ただし、1980年代後半以降に製造されたタルクには、石綿が不純物として混入する可能性は少なくなっています。
参考)https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/doc/srr/SRR-No39-3-4.pdf
具体的な曝露事例としては、秩父産タルクの粉砕作業従事者に石綿肺が見られ、生検肺組織および肺胞洗浄液からアクチノライトが検出されたケースがあります。また、大阪府下のタイヤ製造工場で打ち粉としてタルクを使用していた労働者の肺がん例では、肺の剖検資料からかなりの量のアクチノライトが検出されています。こうした事例から、職歴にタルクの曝露歴がある場合、アクチノライトがタルクの不純物として混入していた可能性が非常に高いと考えられています。
参考)KAKEN href="https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-60030080/" target="_blank">https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-60030080/amp;mdash; 研究課題をさがす
現在では、タルクなど石綿含有物を使用する作業について、「あくまでもタルクと石綿には違いがあり現在の知見ではタルクは有害物質ではなく有益物質」とされていますが、産出地によっては不純物として石綿が混入している場合があるため注意が必要です。このため、建材製造時に天然鉱物(タルク、セピオライト、バーミキュライト、天然ブルーサイト及び蛇紋岩)を原料として使用し、石綿含有率が0.1%超であることが判明している建材については、アスベスト含有建材として登録され規制対象となっています。
参考)当サイトについて
タルクと中皮腫・肺がんなどアスベスト関連疾患の詳細な解説 - 神奈川労災職業病センター
アクチノライトを含むアスベスト建材の中には、見た目だけでは正確なレベル判定が困難なケースが存在します。建築物の壁面や天井材の外観からは、吹き付け材なのか成形板なのか、あるいはアスベストが含まれているのかどうかを確実に判断することができない場合があります。このような状況では、専門的な分析が不可欠です。
参考)壁面の見た目だけでは判断できない?アスベスト判定のポイントと…
分析結果の解釈においても注意が必要です。JIS A 1481-2(X線回折法)で定性分析を行った場合、石綿回折線のピークが確認できない場合で定量下限が0.1%未満であれば「0.1%を超えて含有しないもの」として取り扱えますが、定量下限が0.1%を超える場合や不純物による影響で石綿回折線のピークの有無の判断が困難な場合は、「0.1%を超えて含有しているもの」として取り扱う必要があります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/0000043001.pdf
特に、平成18年以前に3種のアスベスト(クリソタイル・アモサイト・クロシドライト)のみを対象として分析し「含有なし(0.1重量%以下)」と判断されたものの場合、アクチノライト・アンソフィライト・トレモライトの追加分析が必要になります。これは、平成20年の規制強化により、すべての種類の石綿について徹底的に調査する必要が生じたためです。
判断が困難な建材については、事業者が安全側の判断として「石綿が0.1%を超えて含有しているもの」とみなして関係法令に規定する措置を講ずることも認められています。この場合、定量分析を行わずにレベル1またはレベル2相当の厳重な除去対策を実施することで、確実に安全を確保できます。
また、「*印がついている建材」として、建築基準法に基づき認定された防火材料等を編集した「耐火防火構造・材料等便覧(平成12年)」に掲載されている石綿を使用した可能性がある建材で、製造メーカーが既に廃業していた、製造当時の記録がない、または連絡先が不明等の理由により確認が取れていないものがあります。このような建材についても、同種製品や関係業界団体の意見から石綿を使用した可能性があるものとして扱われます。