メトロポリタン美術館みんなのうた大貫妙子と名曲の魅力

NHK『みんなのうた』で1984年に放送された「メトロポリタン美術館」は、大貫妙子の代表曲として今も愛され続けています。児童文学『クローディアの秘密』から着想を得た歌詞と、岡本忠成の人形アニメが織りなす独特の世界観とは?

メトロポリタン美術館みんなのうた

この記事の内容
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大貫妙子の名曲誕生秘話

1984年放送開始から40年以上愛される楽曲の背景

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児童文学との深い関係

『クローディアの秘密』に隠された歌詞の元ネタ

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人形アニメの芸術性

岡本忠成が創造した幻想的な映像世界

メトロポリタン美術館みんなのうた放送の歴史

「メトロポリタン美術館」は、NHK『みんなのうた』で1984年4月から5月にかけて初回放送された楽曲です。作詞・作曲・歌唱を手がけたのは、シンガーソングライターの大貫妙子で、彼女は1953年東京生まれ、1973年に山下達郎らとシュガー・ベイブを結成した経歴を持ちます。シュガー・ベイブ解散後の1976年からソロ活動を開始し、都会的で洗練された音楽性で高い評価を得ました。
参考)メトロポリタン美術館 (みんなのうた) - Wikipedi…

 

本曲は『みんなのうた』の放送楽曲の中でもとりわけ人気が高く、初回放送から8か月後の1984年12月から1985年1月に再放送されたのを皮切りに、定期的に再放送が続いています。2011年にはソニー・ミュージックダイレクトより発売されたCDアルバム『NHK みんなのうた 50 アニバーサリー・ベスト』にオリジナル音源が収録されるなど、映像作品も複数のDVDで視聴可能です。

メトロポリタン美術館大貫妙子の音楽性と魅力

大貫妙子は、日本のポップ・ミュージックにおける女性シンガー・ソングライターの草分け的存在の一人として知られています。幼少期から音楽に恵まれた環境で育ち、小学生の頃はピアノとバレエを習い、自宅にあったクラシックや軍歌のレコードに親しんでいました。中学生時代にはビートルズをコピーして文化祭で歌い、高校時代には本格的にバンドを組んでフィフス・ディメンションやママス&パパスのコピーをした経験があります。
参考)大貫妙子の学歴は?若い頃の活動やプロフィール

 

「メトロポリタン美術館」の楽曲は、大貫の透明感のある歌声と、幻想的で詩的な歌詞が特徴です。曲名の表記は「メトロポリタン美術館」ですが、放送映像では冒頭「メトロポリタンミュージアム」の字幕が映し出され読み上げられます。この曲は大貫の作品では、シングル「宇宙みつけた」のB面や、アルバム『Comin' Soon』『Boucles d'oreilles(ブックル ドレイユ)』などに収録されており、井上美哉子・新倉芳美・KUKO・新居昭乃など多くの歌手によってカバーされています。youtube+1

メトロポリタン美術館クローディアの秘密から生まれた歌詞

この楽曲は、アメリカ合衆国の児童文学作家E・L・カニグズバーグの『クローディアの秘密』(原題:From the Mixed-up Files of Mrs. Basil E. Frankweiler)に着想を得て作られたといわれています。『クローディアの秘密』は1967年に発表された作品で、弟と家出した少女クローディアがニューヨークのメトロポリタン美術館に寝泊まりするという物語です。
参考)メトロポリタン美術館 歌詞と解説 NHKみんなのうた 元ネタ
youtube
歌詞に登場する「天使の像」や古代エジプトのミイラを収めた石棺、ヴァイオリンのケースとトランペットのケースをトランク代わりにして荷物をつめる場面など、いくつものモチーフがこの児童文学から取り入れられています。原作では、クローディアは何も考えずに美術館に飛び込んだわけではなく、大きくて気持ちの良い場所で、屋内で、できれば美しいところはどこだろうとよく考えた結論として、メトロポリタン美術館を選びました。美術館に隠れ住んだ二人は、最近メトロポリタン美術館が225ドルで買い入れたミケランジェロの初期の作品ではないかとされる天使像の謎に夢中になります。
参考)夜の美術館の過ごし方/『クローディアの秘密』|hitomi.
youtube

モチーフ 歌詞での表現 原作での描写
天使の像 大理石の台の上で天使の像ささやいた ミケランジェロの作品とされる天使像
エジプト展示 ファラオ眠る石の布団にくるまって 古代エジプトのミイラを収めた石棺
楽器のケース ヴァイオリンのケース トランペットのケース トランク代わりに荷物をつめる場面

メトロポリタン美術館岡本忠成の人形アニメーション

大貫妙子の歌唱に合わせて展開されるのは、岡本忠成制作による人形アニメーションです。岡本忠成は、『NHK みんなのうた』「メトロポリタン美術館」の映像を制作したアニメーション作家として知られています。法学部出身の岡本は、一度は企業で働いたものの日本大学芸術学部に再入学して立体アニメーションを志し、1961年から持永らのMOMプロダクションで実践を積みました。youtube
参考)アニメシアター傑作選「岡本忠成」特集上映 (杉並アニメーショ…

 

1964年に自身のプロダクションであるエコーを設立し、1971年には自らのスタジオを開設した岡本は、原作の世界をよりよく表現するため、才能に溢れたスタッフと共に毎回新たな手法を模索しました。その哲学は、素材の面で驚くべき多彩さを見せ、立体・半立体・セルなど技法面でも常に挑戦を欠かさないものでした。「メトロポリタン美術館」の映像は暗めのトーンで、番組上デフォルメされている一般的な包帯を巻いたファラオのミイラや、終盤の歌詞通りに「大好きな絵の中に閉じ込められる」演出など、怖い印象を受ける子供も多く、本放送当時子供だった世代からは「みんなのうたのメトロポリタン美術館」を子供の頃怖かった物として上げる感想がSNSに上がることが多いとされています。
参考)川本喜八郎+岡本忠成パペットアニメーショウ2020 href="https://www.nfaj.go.jp/exhibition/puppetanimashow/" target="_blank">https://www.nfaj.go.jp/exhibition/puppetanimashow/amp;#82…

 

メトロポリタン美術館エドガー・ドガの絵画と陶器コレクション

ラストシーンに登場する「大好きな絵」とは、エドガー・ドガ「踊りのレッスン(ダンス教室)」(1871年作、メトロポリタン美術館所蔵)です。この作品は、フランスの印象派の画家エドガー・ドガ(1834-1917)による絵画で、ダンス教室で練習をする若きバレリーナたちと、バイオリンを片手に指導するダンス教師が描かれています。中央の鏡で構図的に二分割され、教師の向きや床板の模様、バイオリン・ケースの向きなどで視線の方向は緩やかな右上に誘導されています。
参考)ダンス教室(踊りのレッスン)エドガー・ドガ 絵画
youtube
『メトロポリタン美術館』の少女は、画面右下に比較的広めのスペースがある「ダンス教室」の右下部分に閉じ込められてしまう演出となっています。1874年に制作されたこの作品は、メトロポリタン美術館が所蔵するドガの代表的バレエ絵画の一つであり、パリのオルセー美術館が所蔵する類似作品《踊りの教室》と並んで、彼がバレエという主題に注いだ情熱と芸術的探求の到達点といえるものです。
参考)【踊りのレッスン(The Dance Class)】エドガー…

 

メトロポリタン美術館には、ブランド陶器愛好家にとって興味深いコレクションも多数所蔵されています。例えば、清朝第四代康熙帝の時代(在位1662~1722年)に制作された「五彩 花に流水文鉢」は、直径21センチで、繊細な絵付けと流麗典雅な雰囲気が特徴です。この作品には「大明成化年製」という偽銘があり、過去の伝統へのリスペクトと作品自体の質の良さを声明する二つの意味を持つとされています。2010年秋のクリスティーズ・ニューヨークのオークションで、手数料込みで4万ドルで落札されました。
参考)https://ameblo.jp/art-seishindo/entry-12611421299.html

 

メトロポリタン美術館古代エジプト展示の世界

メトロポリタン美術館の古代エジプト部門は1906年に創設され、世界最大級の美術館として充実したコレクションを誇っています。館内には、有名な青いカバ「ウィリアム」という愛称で呼ばれるエジプトの副葬品があり、復活を表す蓮の花と蕾が描かれています。ミイラのコーナーでは、ライオンの顔の守護神や、とても大きな石棺が展示されています。
参考)https://ameblo.jp/kaz-trip/entry-12864292918.html

 

特に印象的なのは「Temple of Dendur」(デンドゥール神殿)で、これはアメリカ政府がヌビアの遺跡保護を支援した感謝の印として、エジプト政府からアメリカに贈られたものです。壁画では皆んな横顔で描かれていますが、目は正面を見ているという古代エジプト美術の特徴が見られ、再現された色鮮やかな人物が投影されてファラオが神々にぶどう酒を捧げている様子が説明されています。カノポス容器と呼ばれる、ミイラ作りの際に死者から取り除いた肝臓、胃、肺、腸を保存するための石製や陶製の容器も展示されており、死後も再生・復活を遂げて永遠に生き続け来世における永遠の幸せを願った王家の人々の死生観を表しています。
参考)http://www.ryuss2.pvsa.mmrs.jp/henshukoki-2014/no297-140901.html

 

メトロポリタン美術館古代エジプト展では、女王ハトシェプストの石灰岩で造られた高さ50cmの頭像が展示の入口におかれています。もとは3m以上の大きさのハトシェプスト女王の全身像のうちの頭部で、1923年から35年にかけてメトロポリタン美術館が発掘調査隊を派遣した際に発見し、復元されたものです。女王ハトシェプストは、新王国時代第18王朝(紀元前1505年頃)のファラオで、内政の強化と近隣諸国との交易に力を入れて文化的最盛期を築き、古代エジプト史において数々の功績を残した神秘の女王として知られています。
メトロポリタン美術館公式サイト
古代エジプトコレクションの詳細情報と高解像度画像が閲覧できます。エドガー・ドガの「踊りのレッスン」やエジプト展示の参考資料として有用です。

 

NHKみんなのうた「メトロポリタン美術館」公式ページ
大貫妙子による楽曲の放送情報と作品詳細が掲載されています。楽曲制作の背景や岡本忠成のアニメーション映像に関する公式情報が確認できます。