カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることで、全体としての排出量を実質ゼロにする概念です。この概念は二酸化炭素だけでなく、メタンやフロンガスなどの温室効果ガス全般を対象としています。一方、脱炭素は二酸化炭素の排出量を削減し、将来的に実質ゼロを目指す取り組みで、主にCO2削減に焦点を当てた概念です。
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日本政府は2020年10月に「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」ことを宣言しました。この宣言により、産業界や自治体による温室効果ガス削減の動きが活発化し、脱炭素社会に向けた取り組みが加速しています。環境省の定義によると、カーボンニュートラルは「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること」を意味します。
参考)日本LCA学会講演会「温室効果ガス排出削減貢献量の活用」
脱炭素の「実質ゼロ」という表現は、CO2の排出を完全にゼロにすることが現実的に困難であるため、排出量の削減や森林などによる吸収量とのバランスを取ることを意味します。両概念とも地球温暖化対策に向けた取り組みであり、エネルギーの効率化や再生可能エネルギーの普及拡大が重要な課題となっています。
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カーボンニュートラルにおける排出量と吸収量の関係は、天秤のようなバランスシステムとして理解できます。排出量を削減しながら、植林などによってCO2吸収量を増やすことで、全体で見たときにバランスがとれている状態を目指します。脱炭素がCO2排出量そのものをできる限り減らすことを目指す概念であるのに対し、カーボンニュートラルは排出される温室効果ガスの量を、吸収・除去する量と相殺し実質的にゼロにする考え方です。
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実際の企業活動では、サプライチェーン全体での温室効果ガス排出削減が求められています。2023年度の日本の温室効果ガス排出量は約10億1,700万トン(CO2換算)となり、2022年度比で4.2%減少しました。この削減には、エネルギー効率の改善や再生可能エネルギーの導入が寄与しています。
参考)脱炭素とカーボンニュートラルの違いは?関連用語や取り組みも徹…
少々極端に言えば、CO2排出量が現状と変わらなくても、吸収量がそれを相殺できるほど大きくなればカーボンニュートラルは実現できます。しかし、吸収量を多くするだけでは現実的にカーボンニュートラルの実現は難しいため、いずれにしてもCO2の排出量を削減する努力が必要です。
参考)【図解あり】脱炭素とカーボンニュートラルの違いを徹底解説
カーボンニュートラルと脱炭素では、目標達成のための実現手段にも違いがあります。脱炭素のアプローチ方法として、化石燃料の使用に頼らないエネルギー構造への移行が中心となります。具体的には、バッテリーを駆動させたり、再生可能エネルギーによる発電を通して動力を得たりすることが該当します。
参考)脱炭素とは?カーボンニュートラルとの違いや企業の取り組み事例…
カーボンニュートラルのアプローチには、脱炭素の取り組みだけでなく、森林などのCO2吸収源の保全・再生も含まれます。企業では、電力の100%再生可能エネルギー化を目指す国際イニシアティブ「RE100」への参加や、製造工程での省エネ技術導入が進められています。例えば、トヨタ自動車は水素燃料電池車の開発を進めており、走行時にCO2を排出せず水だけを排出する特徴があります。
参考)カーボンニュートラルに向けた取り組み事例10選!国内・国外企…
陶磁器業界では、焼成工程のCO2排出割合が全体の8割前後を占めているため、素焼きレス化技術や低温焼成化技術の導入によって、燃料削減と二酸化炭素排出量削減が実現されています。リサイクル食器の活用も、プラスチック資源循環促進法に則った脱炭素への取り組みとして注目されています。
参考)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000138355.html
カーボンニュートラルと脱炭素の取り組みは、企業経営に大きな影響を及ぼしています。改正省エネ法による罰則リスクだけでなく、CO2排出に伴う増税が検討されていることから、企業は積極的に温室効果ガス削減に取り組む必要があります。株式会社セブン&アイ・ホールディングスは『GREEN CHALLENGE 2050』を掲げ、2050年までの実現を目指し、2013年度比でグループの店舗運営に伴うCO2排出量を80%以上削減する予定です。
参考)カーボンニュートラルに向けた企業の取り組み事例10選をご紹介…
企業のカーボンニュートラル達成には、サプライチェーン排出量の削減が不可欠です。スコープ1(直接排出)、スコープ2(エネルギー起源の間接排出)、スコープ3(その他の間接排出)の視点を持ち、事業活動に関係する全ての排出を把握・管理することが求められます。東芝は『環境未来ビジョン2050』を策定し、2030年までに2019年度比で温室効果ガス排出量を70%削減、2050年までにバリューチェーン全体でカーボンニュートラルを実現する予定です。
参考)https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/scope123.html
陶磁器産業では、CO2低排出型陶磁器製造技術の開発により、素焼きレス化技術で40kg、低温焼成化技術で24kgのプロパンガス削減が実現しました。このような技術革新は、製造業におけるカーボンニュートラル実現の具体例として、他産業への波及効果も期待されています。
参考)https://www.env.go.jp/earth/ondanka/cpttv_funds/pdf/db/239.pdf
陶器や食器業界は、製造工程でのエネルギー消費が大きいため、カーボンニュートラルと脱炭素への取り組みが特に重要視されています。陶器メーカーの食器製造において、焼成工程のCO2排出割合が全体の8割前後を占めており、1300℃~1400℃への加熱が必要なため、この工程の効率化が重要課題です。岐阜県の美濃焼産地では「脱炭素美濃焼SDGsプロジェクト」が開始され、焼成条件を見直すことで燃料を削減し、二酸化炭素排出量を削減する取り組みが進められています。
参考)https://www.pref.gifu.lg.jp/uploaded/attachment/318927.pdf
リサイクル食器の活用も、カーボンニュートラル実現に向けた重要な取り組みです。株式会社おぎそは、ペットボトルを使用したリサイクルPET樹脂食器を三重県津市の給食用食器として提供し、2025年3月に津市とカーボンニュートラル実現に向けたプラスチック資源循環の推進に関する協定を締結しました。この取り組みは、児童生徒への環境意識の啓発にもつながり、「ペットボトルを出す時はラベルを剥がして中身を洗って出そう」という分別意識の向上にも貢献しています。
参考)https://www.env.go.jp/content/000118213.pdf
破損した強化磁器食器を全国から回収し、粉砕後に陶土に18%配合してリサイクル高強度磁器食器として製造・販売する企業もあります。このような循環型のビジネスモデルは、資源の有効活用とCO2排出削減を両立させる先進的な事例として注目されています。陶磁器産地が集積する中部圏から全国へと普及することで、業界全体の脱炭素化が加速すると期待されています。