水素(H2)は可燃性ガスの中でも特に扱いに注意が必要なガスです。爆発範囲は4.0~75.6vol%と極めて広く、少量から高濃度まで幅広い範囲で爆発の危険性があります。水素は空気より軽く(比重0.07)、拡散速度が速いため、漏洩時には速やかに上方へ拡散します。
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発火点は約500℃と比較的高温ですが、爆発等級は最大の3に分類されており、爆発時の破壊力が非常に大きいことが特徴です。水素は密度が最小の物質であるため高濃度になりにくい反面、爆発下限界が4vol%と低いため、わずかな漏洩でも危険域に達する可能性があります。
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クリーンエネルギーとして注目を集める水素ですが、安全な取り扱いには専門知識と厳格な管理体制が不可欠です。水素を4%未満の安全域まで希釈することで、爆発しない雰囲気を作り危険を回避する方法が工業現場では採用されています。
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プロパン(C3H8)は家庭用LPガスの主成分として広く使用されている可燃性ガスです。爆発範囲は2.1~9.5vol%で、爆発下限界が2.1%と低いため、少量の漏洩でも火災や爆発のリスクが高まります。プロパンは空気より重く(比重約1.5)、漏洩すると床面や低い場所に滞留する特性があります。
参考)可燃性ガス|ガスに関する基礎知識|技術情報|フィガロ技研
家庭用プロパンガスは本来無色・無臭ですが、ガス漏れ時に気づきやすいよう人工的に刺激臭が付加されています。発火点は約450~500℃、火炎温度は約2800℃で、都市ガス(メタン)に比べて単位容量あたりの発熱量が大きいのが特徴です。
参考)プロパンガス|不動産用語集|三菱地所の住まいリレー
プロパンガスは高圧で液化してボンベに充填され、家庭に配送される供給方式が採られています。ガス器具の構造によって燃焼量が調整されているため、使用時の火力や安全性は都市ガスとほぼ同等です。ただし、スプレー缶の噴出剤としても使用されているため、ガス機器近くでのスプレー缶使用は可燃性ガスへの引火を招く危険があり、厳に避けるべきです。
参考)ガスコンロ・ガス炊飯器の安全な使い方|一般社団法人 日本ガス…
メタン(CH4)は都市ガスの主成分として広く普及している可燃性ガスです。爆発範囲は5.0~15.0vol%で、空気中で着火すると爆発を起こします。メタンは空気より軽く、火炎温度は約2780℃です。都市ガスとして家庭に供給される際は、気体のままガス管を通じて届けられます。
参考)アセチレンガス
一酸化炭素(CO)は爆発範囲が12.5~74vol%と広く、火災・爆発の危険性に加えて吸入による毒性も持つ危険なガスです。酸素不足の状態でガスを燃焼させると不完全燃焼が起こり、一酸化炭素が発生します。特に冬場、換気せずにガスファンヒーターやガスストーブを密閉空間で使用し続けると、目に見えない一酸化炭素が蓄積し、知らないうちに中毒症状を引き起こす危険があります。
参考)実は危ない!知らずにやりがちNG使い方5選|ガス機器の正しい…
ガス機器使用時には換気扇を回すか窓を開けるなど、こまめな換気が必須です。換気が不十分な場合、燃焼に必要な酸素が不足して不完全燃焼を起こし、一酸化炭素中毒となる可能性が高まります。一酸化炭素中毒は意識障害や命に関わる事故を招くため、寝室やリビング、浴室など密閉された部屋でのガス機器使用には特に注意が必要です。
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アセチレン(C2H2)は可燃性ガスの中で最も高温で燃焼するガスで、金属の溶接・溶断加工に適した作業性と効率の高さを誇ります。火炎温度は約3300℃に達し、メタン(2780℃)、プロパン(2800℃)、エチレン(3000℃)を大きく上回ります。着火温度が約305℃と低く、着火しやすい特性を持ちます。
参考)アセチレンガスについて
アセチレンの最大の特徴は、爆発範囲が2.5~100vol%(一部資料では81vol%)と極めて広いことです。これは水素に次いで広い範囲であり、空気中へ漏洩すると爆発の条件が揃いやすく、非常に危険な可燃性ガスとされています。アセチレンは空気より軽く(比重0.9073)、引火点は約-0.5℃と非常に低温でも引火します。
参考)http://avanti-m.co.jp/auto/news/auto4.html
さらにアセチレンは、酸素などの助燃性物質がなくても、加圧下では自己分解を起こして多量の熱を発生する活性に富んだガスです。高圧状態では自然爆発する危険性があるため、通常は溶解アセチレンとして流通します。これは、アセトンやDMF(ジメチルフォルムアミド)を浸透させた多孔質の固形マスを詰めた容器に圧縮充填する方法で、仮に気相で分解爆発が起こっても液相のガスにまでは伝わらないという極めて高い安全性を確保した状態です。
溶接・溶断作業では酸素と混ぜて使用し(酸素アセチレン炎)、高温を得ることで鉄や鋼を効率的に加工できます。また、化学合成原料としてプラスチック、合成ゴム、ビニル化合物の製造にも用いられます。
エタン(C2H6)は爆発範囲が3.0~12.5vol%の可燃性ガスで、天然ガスの成分として含まれています。メタンと同様に炭化水素の一種で、化学工業において重要な原料として利用されます。天然ガスにはメタンが約75%含まれる一方、エタンは約15%含まれており、その他の炭化水素とともに混合物を形成しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10073755/
ブタン(C4H10)には正ブタン(n-ブタン)とイソブタン(i-ブタン)があり、それぞれ爆発範囲が異なります。正ブタンの爆発範囲は1.6~8.5vol%、イソブタンは1.8~8.4vol%です。ブタンはLPガス(液化石油ガス)の主成分の一つで、プロパンとともに家庭用燃料として使用されています。
携帯用機器(カセットコンロ、ガスライター、スプレー缶など)では、一般家庭に供給されるプロパンガスとは異なり、ブタンが主成分となるケースが多くなっています。ブタンはプロパン同様に液化しやすい性質を持ち、スプレー缶では発射剤として利用されます。液体状態でスプレー缶に充填されたブタンは、空気と触れることにより気化し、勢いよく噴射する仕組みです。
参考)【プロパンガスの完全ガイド】特徴・用途から緊急時対応まで徹底…
カセットボンベの保管においては、「40度以上になる場所に置かない」「直射日光の当たる場所に放置しない」という注意が必要です。溶解アセチレン、LPG、炭酸ガスの容器など、液体が入っている容器は立てて保管することが基本です。
参考)https://www-it.jwes.or.jp/qa/details.jsp?pg_no=0110030290
以下の表は、主要な可燃性ガスの爆発範囲(爆発下限界LELと爆発上限界UEL)を一覧にしたものです。
| ガス名 | 化学式 | 爆発下限界(vol%) | 爆発上限界(vol%) | 比重 |
|---|---|---|---|---|
| 水素 | H2 | 4.0 | 75.6 | 0.07(軽い) |
| メタン | CH4 | 5.0 | 15.0 | 0.55(軽い) |
| エタン | C2H6 | 3.0 | 12.5 | 1.05(やや重い) |
| プロパン | C3H8 | 2.1 | 9.5 | 1.56(重い) |
| n-ブタン | C4H10 | 1.6 | 8.5 | 2.05(重い) |
| イソブタン | C4H10 | 1.8 | 8.4 | 2.05(重い) |
| エチレン | C2H4 | 2.7 | 34.0 | 0.97(ほぼ同じ) |
| アセチレン | C2H2 | 2.5 | 100.0 | 0.91(軽い) |
| 一酸化炭素 | CO | 12.5 | 74.0 | 0.97(ほぼ同じ) |
| アンモニア | NH3 | 15.0 | 28.0 | 0.60(軽い) |
爆発下限界(LEL)が低いガスほど、わずかな漏洩でも危険域に達しやすく、より厳重な管理が必要です。例えばn-ブタンは1.6vol%、プロパンは2.1vol%と低い値を示しており、少量でも火災・爆発のリスクがあります。
参考)可燃性ガス・毒性ガスの危険性について
一方、爆発上限界(UEL)が高いガスは、高濃度でも爆発する可能性があることを意味します。アセチレンは爆発上限界が100vol%に達するため、ほぼすべての濃度範囲で爆発の危険性があり、特に注意が必要です。水素も爆発上限界が75.6vol%と広範囲にわたります。
参考)アセチレン - Wikipedia
この表から分かるように、可燃性ガスは種類によって爆発範囲が大きく異なります。ガス検知器の警報設定は、通常、爆発下限界の1/4以下の値に設定されます。これにより、危険濃度に達する前に警報を発し、ガスの遮断や換気を行えるようにしています。
参考)https://www.fintech.co.jp/etc-data/bakugen-data.htm
可燃性ガス検知器を正しく使用することで、ガス濃度が爆発範囲に入る前に検知し、重大な事故を未然に防ぐことができます。検知器は20%LEL(爆発下限界の20%)で警報を発し、110.1%LEL以上では「OVER RANGE」警報が作動するのが一般的です。
参考)https://sooki.co.jp/upload/surveying_items/pdf/manual_pdf_035286.pdf
可燃性ガスは、陶器や食器の製造工程において重要な役割を果たしています。陶磁器の焼成には高温の炉が必要で、その熱源として可燃性ガスが広く利用されているのです。特にプロパンガスやメタンガスは、安定した高温を長時間維持できる特性から、窯業(ようぎょう)分野で重宝されています。
陶器の焼成温度は種類によって異なりますが、一般的に800℃から1300℃の範囲で行われます。磁器の場合はさらに高温の1200℃~1400℃が必要です。プロパンガスの火炎温度が約2800℃、メタンが約2780℃であることから、これらのガスは陶器焼成に適した熱源といえます。
現代の陶器工房や食器製造工場では、電気窯とガス窯が併用されることが多くなっています。ガス窯は温度の上昇・下降を細かく調整でき、作品の雰囲気や色合いに独特の表情を生み出せる利点があります。また、ガス窯は電気窯に比べて短時間で高温に到達できるため、エネルギー効率の観点からも評価されています。
ただし、陶器製造現場でのガス使用には安全管理が不可欠です。工房内の換気設備の整備、ガス漏れ検知器の設置、定期的な設備点検など、可燃性ガスの特性を理解した上での厳格な安全対策が求められます。特に作業場が密閉されやすい冬季は、不完全燃焼による一酸化炭素中毒のリスクも高まるため、換気の徹底が重要です。
参考)可燃性ガスの取扱いに注意しましょう - 安達地方広域行政組合…
小規模な陶芸教室や個人工房では、カセットコンロタイプの小型ガスバーナーを使用することもあります。これらの携帯用機器にはブタンが主成分として使われており、陶器の表面処理や局所的な加熱に活用されています。食器に絵付けをした後の焼き付け作業など、細かな温度調整が必要な工程で威力を発揮します。
可燃性ガス容器の保管には、通風・換気が十分に行える不燃性材料で作った建家などの場所を選ぶ必要があります。直射日光によって容器の温度が40℃以上にならないよう注意し、高温環境を避けることが重要です。容器置場の周囲2メートル以内では、火気の使用を禁止し、引火性・発火性のものは置かないようにします。
参考)カセットボンベの安全な保管方法を解説|ALSOK
地下室、床下、多数の人が出入りする場所、風雨にさらされるような所への保管は避けるべきです。これは、地下室や床下では空気より重いガスが滞留しやすく、漏洩時の危険性が高まるためです。容器は転倒や転落を防ぐため、縄がけや歯止めなどで固定しておく必要があります。
参考)可燃性ガスが爆発する濃度の基準は?爆発範囲の一覧と安全対策も…
可燃性ガスの容器と酸素、塩素ガスの容器は一緒に置かないことが原則です。これは、酸素などの支燃性ガスが存在すると、可燃性ガスの燃焼や爆発が促進されるためです。溶解アセチレン、LPG、炭酸ガスなど、液体が入っている容器は必ず立てて保管します。
参考)ガスの種類|コスモスマガジン|新コスモス電機株式会社
空容器は「使用済み」「空」などと表示し、充填容器と明確に区別しておくことが求められます。充填ガス量が初期の充填ガス量の1/2未満となったガス容器は「残存ガス容器」と定義され、適切な管理が必要です。
シリンダーキャビネットを使用すると、可燃性ガスや毒性ガスを安全に保管できます。特に「単独排気」機能は、火災や中毒事故を防ぐための重要な対策となります。
参考)LabSolution|ラボソリューション
可燃性ガスを使用する際は、換気を習慣にすることが最も重要な安全対策です。ガス機器を使うときは換気扇を回すか窓を開け、常に新鮮な空気を取り入れます。換気が不十分な場合、燃焼に必要な酸素が不足して不完全燃焼を起こし、一酸化炭素中毒となる危険があります。
可燃性ガスの貯蔵場所およびその周辺では、火気その他点火源となるおそれがある器具を用いないことが絶対条件です。電気機器、配線、アース線などの近くにも容器を置かないようにします。容器の近くに油ぼろ、ガソリンなど燃えやすいものおよび腐食性をもつものを置かないようにする必要があります。
ガスストーブやガスファンヒーターの付近には、スプレー缶や衣類など燃えやすい物は置かないでください。スプレー缶の噴出剤として使用されている可燃性ガスに引火して火災となるおそれがあります。機器近くでのスプレー缶使用やガス抜きなどは絶対に行ってはいけません。
参考)ガスファンヒーター・ガスストーブの安全な使い方|一般社団法人…
可燃性ガスが保管または使用されている場所での喫煙は厳禁です。火を消す最も安全な方法は、通常、ガスの供給を止めることです。火を消すだけでは爆発雲が形成される可能性があるため、根本的な対策が必要です。
参考)圧縮ガス: 取り扱い、保管、輸送
ガスコンロで揚げ物をしている時やグリルを使用している時に、その場を離れて出火するケースが多く報告されています。テーブルコンロ使用中は目を離さず、ガス機器周辺に可燃物を放置しないことが事故防止の基本です。
参考)ガスの危険性や予防策とは?近年は安全性も確立!|MOTTO!…
可燃性ガス検知器は、ガス漏れを早期に発見し、重大な事故を未然に防ぐための重要な安全装置です。検知器は予め設定されたガスの濃度(警報設定値)において自動的に警報を発します。警報設定値は、設置場所における周囲の雰囲気の温度において、可燃性ガスにあっては爆発下限界の1/4以下の値とすることが規定されています。
参考)ガス検知警報器(ガス漏れ警報器)の法律上の規定 [ブログ] …
警報精度は、警報設定値に対して可燃性ガス用にあっては±25%以下のものであることが求められます。これにより、ガス濃度が危険域に達する前に確実に警報を発することができます。一般的な可燃性ガス検知器は、20%LEL(爆発下限界の20%)で警報を発し、ブザー断続鳴動、警報ランプ点滅(赤色)、LCD表示(AL)、バックライト点灯でガス警報を知らせます。
ガス濃度が警報レベルに満たなくなると、ガス警報は自動的に解除されます(自動復帰)。高濃度ガスを検知し、指示がふりきれると「OVER RANGE」と点灯表示されます。例えばメタンの場合、110.1%LEL以上で「OVER RANGE」警報が作動します。
高濃度ガスはセンサに悪影響を与える可能性があるため、速やかに清浄空気を吸引させる必要があります。ガス濃度が下がり、ガスが抜けたことを確認してから電源を切ることが重要です。
可燃性ガス検知器は、キャラクタLCDやバーメータ表示(緑、赤)によりガス濃度を表示します。警報点未満は緑色、警報点以上は赤色と危険レベルに合わせて表示が変化し、視覚的に危険度を把握できます。左側にガス濃度、右側に警報設定値をLCDバーグラフ式メータで同時に指示する機種もあります。
参考)https://product.rikenkeiki.co.jp/assets/img/products/142/man/pt1-1110%E3%80%80GP-147.pdf
ガス検知器の設置場所は、検知対象ガスの比重によって決まります。空気より重いガス(プロパン、ブタンなど)は床面付近に、空気より軽いガス(水素、メタンなど)は天井付近に設置することで、効果的に漏洩を検知できます。
参考)可燃性ガスについて
可燃性ガスに起因する爆発事故は、適切な管理を怠ると重大な災害を引き起こします。実際の事故事例から学ぶことで、同様の事故を防ぐことができます。あるガス精製工場では、メタン圧力容器の実際の爆発事故が発生し、半径15メートルで放射レベルが12.5kW/m²、45メートルで4kW/m²に達しました。
ガス機器の不適切な取り扱いや維持管理の不備が、可燃性ガス漏れの主な原因となっています。定期的な点検および清掃を実施し、機器に異常がある場合、または異常を感じた場合は、直ちに使用を中止して専門業者に連絡することが重要です。
ガスホースの劣化や接続不良による漏洩も多く報告されています。ガスホースは定期的に点検し、ひび割れや硬化が見られる場合は速やかに交換する必要があります。接続部分は確実に固定し、ゆるみがないか定期的に確認します。
冬場の密閉空間でのガス機器使用は特に危険です。窓やドアを閉め切り、ガスファンヒーターやガスストーブを連続運転すると、一酸化炭素中毒や意識障害のリスクが高まります。寝室、リビング、浴室など密閉された部屋では、必ずこまめな換気を行うことが命を守る鍵となります。
布団、カーテンなど可燃物の近くでガス機器を使用すると、接触して火災になる危険があります。小さなお子さまがいる家庭では、やけどなどにも十分注意が必要です。グリル排気口の上にものを置くことも、火災の原因となるため避けるべきです。
参考)こんな使い方は大変危険
足立区公式サイト「可燃性ガスの取扱いに注意しましょう」では、家庭でのガス使用時の注意点が詳しく解説されています。
高圧ガス保安協会「酸素の取り扱いについて」では、酸素と可燃性ガスの同時保管の危険性について警告しています。
これらの事故事例と対策を理解し、日常的に安全意識を持つことで、可燃性ガスによる事故を大幅に減らすことができます。適切な知識と対策を身につけることが、事故のリスクを最小限に抑える最も効果的な方法です。