カイ・フランクは1911年にフィンランドのヴィーブリで生まれ、「フィンランドデザインの良心」と称される伝説的なデザイナーです。1945年にアラビア社のデザイナーとなり、翌1946年にはアートディレクターに就任、その後イッタラ社でもガラスデザインを手がけ、北欧デザイン界に革命をもたらしました。
参考)Kaj Franck
第二次世界大戦後の物資が乏しい時代、カイ・フランクは「いかに清潔に豊かに美しく暮らすか」を模索し、過剰な装飾を一切排除した機能美を追求しました。彼のフラワーベースは、デコラティブなテーブルウェアが主流だった時代において、シンプルさと合理性を実現した革新的な存在でした。
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カイ・フランクのデザイン哲学は「必要なものだけを作る」というもので、これは現代のエシカルデザインの先駆けとも言えます。彼が手がけたフラワーベースは、単なる花器ではなく、日常に寄り添いながらひっそりと輝きを放つ生き方の哲学を体現したプロダクトなのです。
参考)https://public-shop.jp/collections/kaj-franck
カイ・フランクがデザインしたフラワーベースには、いくつかの代表的なシリーズが存在します。それぞれに独自の魅力と技法が用いられています。
サルガッソシリーズは、1960年代後半にヌータヤルヴィで製造された気泡入りのガラスシリーズです。細かな無数の気泡を全体に閉じ込めたソーダガラスの質感が特徴で、ゴブレット型の滑らかなフォルムと鮮やかなグリーンやブラウンの色彩が美しい逸品です。光の入る窓側などに置くと、気泡が光を受けて独特のゆらぎ感を演出します。
参考)北欧 ヴィンテージ家具・雑貨のお店 京都B-GeneRATE…
1541シリーズは、円錐状のガラスを重ねたような特徴的なフォルムを持つフラワーベースで、1954年から1969年まで製造されていました。シンプルながら存在感抜群で、インテリアのアクセントとして高い人気を誇ります。
参考)Nuutajarvi/Kaj Franck Vase 1…
ソンメルソ技法を用いた作品も見逃せません。ソンメルソとは「水没した・埋め込まれた」を意味するイタリア語で、異なった色のガラスの層を構成する技法の名前です。ボトム部分のガラスの色の混ざり具合が絶妙で、手吹きガラスならではの表現を楽しめます。
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カイ・フランクのフラワーベースを選ぶ際には、いくつかのポイントを押さえることで、より満足度の高い一品に出会えます。
大きさで選ぶのが最初のステップです。ダイニングテーブルやキャビネットの上など大きな家具に置く場合は、両手で持つくらいの大きさのものを選ぶとバランスが良くなります。逆に、小さなデスクやコンパクトな棚に飾る場合は、片手に乗るようなこぶりなサイズが適しています。
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口の形状も重要な選択基準です。1476シリーズや1479シリーズのように口が狭いタイプは、一輪や少量のお花でもバラけることなく真っ直ぐ立つため、気軽に花を飾りたい方におすすめです。一方、1487シリーズのような口が広いタイプは、ボリュームのあるお花やブーケを飾れるので、華やかさを演出できます。
参考)https://istut.shop-pro.jp/?pid=171741046
カラーとテクスチャーにも注目しましょう。カイ・フランクの作品は、マウスブローで制作されているため厚みに差があり、プレスガラスとは異なる手作り感が感じられます。グリーン、オレンジ、ネイビーなど、カラフルな色彩は非常に美しく、光の当たり方によって表情が変化します。
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カイ・フランクのフラワーベースは、ヴィンテージ市場において高い評価を受けており、コレクターアイテムとしても人気があります。
製造年代による価値の違いを理解することが重要です。例えば、1487シリーズは1953年から1956年と非常に短い期間にのみヌータヤルヴィで製造されていたため、希少価値が高くなっています。また、KF245フラワーベースは1957-1969年の間に製造されており、木型によって成型されたオブジェのような独特な形状が特徴です。
参考)メルカリ
サイン(シグネチャー)の確認も真贋判定のポイントです。正規品には「Nuutajarvi」の刻印やカイ・フランクのサインが入っていることが多く、これが真正性の証明となります。オークションやヴィンテージショップで購入する際は、必ずサインの有無を確認しましょう。
参考)https://www.etsy.com/jp/listing/886082267/kaj-franck-sargasso-vase-nuutajarvi-1966
買取市場での評価を見ると、廃番となったカルティオシリーズのフラワーベース(レッド・290mm)などは、特に高値で取引されています。状態が良好で使用感が少ないものほど、コレクション価値は高まります。
参考)Kaj Franck / カイ・フランク ヌータヤルヴィ 1…
カイ・フランクのフラワーベースを最大限に活かすには、いくつかの飾り方のコツを押さえておくと良いでしょう。
一輪挿しでシンプルに飾るのが、カイ・フランクのデザイン哲学に最も合った使い方です。口が狭いタイプのフラワーベースは、一輪だけでもバラけることなく美しく立つため、日常的に気軽に花を楽しめます。季節の花を一輪だけさりげなく飾ることで、北欧の「シンプルな豊かさ」を表現できます。
ドライフラワーとの組み合わせも人気のスタイルです。サルガッソシリーズのような気泡入りガラスは、ドライフラワーのアンティークな風合いと相性が良く、お部屋が一気に味わい深い雰囲気になります。2種類の異なるドライフラワーを使うと、一気にこなれ感が出ると言われています。
参考)https://ameblo.jp/61680318/entry-12748393480.html
複数個を組み合わせたディスプレイも効果的です。異なるサイズのフラワーベースを大小並べて飾ることで、簡単に美しいディスプレイを作れます。特に1541シリーズのような特徴的なフォルムは、何も入れずそのまま飾るだけでもオブジェのように絵になります。
お手入れのポイントとしては、花を飾る場合は毎日の水の入れ替えと花瓶の洗浄が基本です。茎を切り直し、不要な葉を除去することで、花を長持ちさせることができます。ヴィンテージガラスは丁寧に扱い、急激な温度変化を避けることで、長く美しい状態を保てます。
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カイ・フランクの業績を理解する上で、彼が関わった北欧の名門ブランドとの関係性を知ることは欠かせません。
アラビア社との深い繋がりは、カイ・フランクのキャリアの核心です。1873年に創業したアラビアは、もともと陶磁器ブランドとして知られ、1945年にカイ・フランクを新規デザイナーとして雇い入れました。3年後、彼はアートリーダーに就任し、アラビア社が必要としていたパワーの源となっていきました。カイ・フランクは女性デザイナーを抜擢してデザインを多数発表し、キルタやソインツなどの名作を生み出しました。
参考)https://www.mothersweden.jp/arabia-overview.html
イッタラ社との協業も重要です。1881年に創業したイッタラはガラス工房として出発し、1946年にカイ・フランクがガラスデザインのコンペに入賞したことでイッタラ社のデザイナーとなりました。彼はイッタラでカルティオやティーマなどのロングセラーを生み出し、クラシックで保守的だったフィンランドのテーブルウェア界を一変させました。
参考)カイ・フランク - Wikipedia
ヌータヤルヴィ社でのアートガラス制作は、カイ・フランクの創造性の頂点を示しています。1950年からヌータヤルヴィ社のアートディレクターに就任し、実用品の他にアートガラスも手掛けました。ヌータヤルヴィは1793年の創業という長い歴史を持ち、1988年にイッタラ社と合併しました。ここで彼はソンメルソ技法などを駆使した「ユニークピース」と呼ばれる一点物のアート作品を制作し、芸術的な高みに到達しました。
現在、アラビアとイッタラはどちらも2007年からフィスカースグループの傘下に入り、食器の製作を続けています。カイ・フランクのキルタによって広まったアラビアの名声は、彼の遺産として今も受け継がれているのです。
参考)フリーダイヤル