ウィーン2区レオポルトシュタット地区に位置するアウガルテン宮殿は、ウィーン少年合唱団の本拠地として世界的に知られています。この白亜のバロック様式宮殿には、寄宿舎、練習場、学校の機能が集約されており、約100名の団員が日々生活を送っています。1614年にマティアス皇帝が狩猟小屋を建設したのが始まりで、その後フェルディナンド3世がオランダ風の庭園を整備し、レオポルト1世が1677年頃にバロック様式の歓楽公園「カイゼル・ファヴォリータ」として完成させました。
宮殿内では、少年たちが朝6時45分から夜21時30分の消灯まで、規律ある生活を送りながら合唱の練習と一般教科の学習に励んでいます。アウガルテン宮殿の敷地内には約52ヘクタールの広大なバロック庭園が広がり、庭園建築家ジャン・トレエが設計したカエデやトネリコの並木道が印象的な景観を作り出しています。歴史的には、18世紀末にヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトやルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの作品が宮殿のガーデンホールで演奏され、音楽の都ウィーンの中心的な役割を果たしてきました。
2012年には、アウガルテンシュピッツに少年合唱団専用のモダンなコンサートホール「ムート」が建設され、その斬新な建築様式は当初論議を呼びましたが、現在では定期公演の重要な会場として機能しています。宮殿の敷地内では、練習風景や美しい歌声を聞くことができ、運が良ければ公演を見学できることもあります。ウィーン少年合唱団は1955年に初来日して以来、日本とも深いつながりを持ち、2025年には来日70周年を迎えました。
ウィーン少年合唱団の日常生活やアウガルテン宮殿での4年間の成長過程について詳しく紹介されています
アウガルテン磁器工房は1718年に、クラウディウス・インノセンティウス・デュ・パキエによって「ウィーン磁器工房」として創設されました。これはマイセン磁器工房に次いで、ヨーロッパで2番目に古い磁器工房という輝かしい歴史を持ちます。創業から9年前の1709年にマイセンがヨーロッパ初の白磁製造に成功したことを受け、オーストリアでもハプスブルク家のカール6世(神聖ローマ皇帝でマリア・テレジアの父)から25年間の磁器製造許可を得て高品質な磁器製作を開始しました。
1744年には、女帝マリア・テレジアの勅命により皇室直属の磁器窯に指定され、ハプスブルク家の庇護のもと独自の様式を発展させていきました。17世紀の欧米では、中国や日本から運ばれてくる白くて薄くて美しい東洋磁器は非常に高価で、貴族たちを魅了していました。コーヒー、紅茶、ココアといった新しい飲料文化の広がりとともに、それらを楽しむための美しい器への需要が高まり、各国が自国での磁器製造を競って開発していた時代背景がありました。
ウィーンでは1685年にカフェ1号店がオープンし、上流階級の社交場として情報交換や討論の場となっていました。アウガルテン磁器は、こうした華やかなウィーン文化の中で、皇室の饗宴や日常生活を彩る器として重要な役割を果たしてきました。19世紀初頭には一時衰退の時期もありましたが、1923年に「ウィーン磁器工房アウガルテン」として現在の位置に再興され、帝室マニュファクチャーの伝統を受け継ぎながら現代に至っています。2018年には創業300周年を迎え、長い歴史の中で培われた技術と芸術性は世界中のコレクターから高く評価されています。
アウガルテンの詳しい歴史とハプスブルク家との関係について解説されています
アウガルテン宮殿内には磁器博物館が併設されており、創設期から現代までのアウガルテン磁器の歴史を辿ることができます。博物館はかつて皇帝家の遊宴に用いられた建物で、第一部門では中国における磁器製造の起源とヨーロッパ宮廷への伝播、1718年のデュ・パキエによる工房設立から1744年の皇帝家所有への移行までが紹介されています。展示品には創設者時代のバロック磁器、ロココ、歴史主義、ビーダーマイヤーなどの様式の磁器が含まれ、特にカイザーゼンメルと呼ばれる名高い磁器コレクションが見どころです。
第二部では20世紀から21世紀の作品が紹介されており、1923年の工房再興後のヨーゼフ・ホフマン、ワルター・ボッセ、ヘルタ・ブーハーといったモダンなデザイナーの作品、1950年代の明快でシンプルなデザイン、1970年代のアリック・ブラウアーの作品、そして現代のフィリップ・ブルーニの作品まで、時代ごとの変遷を楽しむことができます。両展示フロアの間にはオリジナルの窯が立っており、改装工事を終えた建物内にはショップとレストランも併設されています。
工房見学ツアーでは、ガイドとともに製造工程を間近で見学することができます。職人たちが型を使って人形のパーツをひとつずつ作る様子、例えば馬に乗った騎士の人形を製作するために多くのパーツを組み合わせる工程、念入りな素地の仕上げ、そしてペインターによる絵付けまで、すべて手作業で行われる様子を観察できます。ウィーン中心部から車で10~15分程度の立地にあり、アウガルテン宮殿の美しいバロック庭園の散策と組み合わせて訪れることができます。工房見学を通じて、ひとつひとつ手作りで製作されている過程を目にすると、アウガルテン磁器への愛情がさらに深まります。
アウガルテン工房見学の詳細と製作過程の写真が掲載されています
アウガルテンの最大の特徴は、工房内での独自の粘土の調合と熟成によって実現した滑らかで艶やかな白磁です。300年にわたって守り続けられている製造技術は、創業以来すべて職人による手作業で行われており、絵付けも熟練した職人によるハンドペイントという徹底したこだわりがあります。この手作業へのこだわりが、マイセンとは異なるアウガルテン独自の芸術性と品質の高さを生み出しており、世界中のコレクターから「質も大変高い」と評価される理由となっています。
代表的なシリーズとしては、女帝マリア・テレジアの名を冠した「マリアテレジア」シリーズが有名です。また、バラ、すみれ、りんどう、ヒヤシンスといった花々を描いたプレートは、19世紀初頭のウィーン窯時代から続く伝統的なデザインで、現在のアウガルテンの「アルペンフラワー」シリーズの原型となっています。1832年のバラプレート、1827年のすみれプレート、1829年のりんどうプレートなど、シシィ博物館(ホーフブルク王宮内)では歴史的な作品を鑑賞することができます。
ビーダーマイヤー様式も重要な作品群で、シンプルながら上品なデザインが特徴です。また、豪華な金の装飾が施された神話をテーマにした絵皿(1802年製)や、華やかなカップ&ソーサー(1820-30年製)なども、ハプスブルク家の宮廷文化を反映した贅沢な作品として知られています。モダンな作品では、1997年から始まったイヤーズプレートシリーズがあり、毎年異なるモダンな絵柄で発表されています。アウガルテンの作品は、芸術の都ウィーンで育まれた華やかな文化と、職人による妥協のない手仕事が融合した、他に類を見ない陶磁器芸術といえるでしょう。
アウガルテンの代表的なシリーズと特徴について、詳しい解説があります
アウガルテン宮殿は、レオポルト1世が1677年頃にバロック様式の歓楽公園として整備し、その後1705年から1708年にかけて皇帝ヨーゼフ1世が庭園建築家ジャン・トレエに依頼して宮殿と庭園を修復させました。トレエは、シェーンブルン宮殿とベルヴェデーレ宮殿の庭園も手がけた著名な建築家で、アウガルテンにもフランス風の洗練された設計思想が反映されています。1712年には弟のカール6世が再び庭園の拡張を依頼し、現在のような約52ヘクタールの広さと豪華さを持つ庭園が完成しました。
庭園には、カエデ、トネリコ、ライム、クリなどのフランス風の並木道が印象的に配置され、ウィーン最古のバロック庭園としてオーストリアの連邦庭園に指定されています。1775年5月1日には、啓蒙主義の思想に基づき、ヨーゼフ2世によって一般公開されました。現在も日中は市民に開放され、ジョギングやヨガを楽しむ人々、散歩を楽しむ家族連れなど、多くの人々に愛されています。約3キロメートルの周回コースがあり、地元住民の憩いの場として親しまれています。
庭園内には、第二次世界大戦時にアドルフ・ヒトラーの命令で建設された高さ約50メートルの2つの対空砲塔(戦闘塔と管制塔)が今も残されており、戦争の記憶を伝える歴史的記念碑となっています。1960年代に爆破を試みたものの失敗し、現在も使用方法について議論が続いています。夏場には子供用屋外プールも人気で、遊び場やスポーツフィールドも充実しています。また、敷地内にはフィルムアーカイブ・オーストリアの施設、老人ホーム、ユダヤ系のシナゴーグや教育施設を持つラウダ・チャバド・キャンパスなども併設されており、単なる観光地ではなく、地域に根ざした多機能な文化施設として発展を続けています。
アウガルテン宮殿と庭園の公式情報、施設案内が掲載されています
アウガルテン磁器は、ハプスブルク家の宮廷文化を支える重要な要素として発展してきました。17世紀後半から18世紀にかけて、ヨーロッパの貴族社会ではコーヒー、紅茶、ココアといった新しい飲料文化が広まり、これらの飲料を楽しむための美しい器への需要が急激に高まりました。ウィーンでは1685年にカフェがオープンし、上流階級の社交場として定着していく中で、東洋の磁器は「白くて薄くて軽くて美しい」芸術品として珍重されていました。アウガルテン磁器は、こうした時代の要求に応える形で誕生し、皇室の饗宴や日常生活を彩る器として重要な役割を果たしてきました。
皇室直属の磁器窯となった後は、マリア・テレジアをはじめとするハプスブルク家の人々の好みが作品に反映され、優雅で洗練されたデザインが生み出されました。ホーフブルク王宮のシシィ博物館には、銀の食器、燭台、磁器、センターピースなど、ハプスブルク家が実際に使用していた豪華な食器コレクションが展示されており、当時の贅沢な食卓文化を垣間見ることができます。特に、花々を描いたプレートや、神話をモチーフにした金彩の絵皿は、単なる食器を超えた芸術作品として制作されていました。
現代においても、アウガルテンは伝統的な製法を守りながら新しいデザインに挑戦し続けています。1920年代から1930年代にはヨーゼフ・ホフマンなどのモダンデザイナーが参加し、時代に合わせた作品を生み出しました。工房では今も職人たちが一点一点手作業で製作しており、型作りから絵付けまでの全工程を見学できる工房ツアーは、訪問者に製作の難しさと美しさを伝える貴重な機会となっています。アウガルテン宮殿のショップやレストランでは、実際に磁器を購入したり、美しい器で食事を楽しんだりすることができ、300年の伝統が現代の生活に息づいている様子を体験できます。食器や陶器に興味がある方にとって、アウガルテンは歴史と芸術、そして実用性が完璧に調和した、まさに理想的なブランドといえるでしょう。
ハプスブルク家とアウガルテン磁器の関係、お茶文化との深い繋がりについて詳しく解説されています