kmpベルリンの正式名称は「Königliche Porzellan-Manufaktur Berlin」で、日本語では「ベルリン王立磁器製陶所」と呼ばれています。その歴史は18世紀中期に遡り、1751年にベルリンの商人ヴィルヘルム・カスパー・ヴェーゲリーがフリードリッヒ大王から磁器製陶所を建てる特権を得たことから始まります。
しかし、ヴェーゲリーは1757年に挫折し、事業をベルリンの商人ヨハン・エルンスト・ゴッツコフスキーに譲渡しました。当時ヨーロッパでは白磁が「白い金」と呼ばれるほど貴重で、各国が国家レベルで白磁製造に取り組んでいました。
転機となったのは1763年で、7年戦争による国家財政不安のため、ゴッツコフスキーが財政的苦境に陥り、プロイセンの王フリードリッヒ大王に会社を売却したことで、真の意味での王立磁器製陶所が誕生しました。フリードリッヒ大王は「白き金」と呼ばれる美しく透明感のある磁器を高く評価し、多額の資金を投資するとともに、王笏をエンブレムとして使用することを許可しました。
kmpベルリンは260年以上の歴史の中で、様々な困難を乗り越えてきました。1807年にはナポレオン軍によるベルリン占領で工場出荷商品を没収され多額の損失を被り、1943年には第二次世界大戦の空襲により工場が破壊されるという危機にも直面しました。しかし、その都度復活を遂げ、現在でもドイツを代表する高級磁器ブランドとして君臨しています。
kmpベルリンの魅力は、時代ごとの芸術様式を反映した多彩なシリーズにあります。最も有名なのは「ロカイユ」シリーズで、フリードリヒ大王が宮殿のために注文したロココ様式の優雅なデザインが特徴です。現在でもドイツ連邦大統領官邸「ベルビュー宮殿」で使用されており、その格式の高さを物語っています。
「クアランド」は1790年にクーラント公爵の注文によって誕生した新古典主義のシリーズです。最大の特徴は食器を縁取る「リボンカーテン」と呼ばれる繊細なレリーフで、コロンとした可愛らしい数珠模様とエレガントなデザインが融合しています。このシリーズは現在13種のパターンに派生し、日本国内では入手が困難とされる希少なシリーズとなっています。
19世紀に登場した「ケレス」は、アールヌーボー調のデザインが印象的なシリーズです。ローマ神話の豊穣の女神にちなんで名付けられ、金で描かれた麦の穂やたわわに実った果実が鮮やかに描かれています。豊かな装飾やレリーフ、カラフルな絵付けが施された手の込んだ名作として評価されています。
「ウルビーノ」は1930年に登場し、現在も高い人気を集めるモダンなシリーズです。アールデコやバウハウスの時代を象徴するシンプルでモダンなデザインが特徴で、おもてなしはもちろん普段の食卓にも使いやすい実用性を兼ね備えています。
現代的なシリーズとしては、1996年にエンゾ・マリ氏がデザインした「ベルリン」があります。クラシックでありながら新たなテイストが加味されたシンプルなデザインで、1998年には世界的な「iFデザイン賞」を受賞しています。
kmpベルリンは高級磁器ブランドとして高い買取価格が期待できる食器です。特に人気の「クアランド」シリーズでは、シンプルな白磁タイプでもカップ&ソーサー1客あたり3,000円前後の買取価格が相場となっています。
より価値が高いのは絵付けが施されたタイプで、カップ&ソーサー1客あたり5,000円から10,000円前後の買取価格が期待できます。プレートも同様に5,000円から10,000円前後の価格帯となりますが、柄や絵付けの種類によって価格は大きく変動します。
買取価格に大きく影響する要因は以下の通りです。
kmpベルリンの食器は現在でも手描き絵付けで制作されており、その技術的価値と芸術性が買取価格に反映されています。ブランド自体の価値も高く、数ある食器の中でも特に高価なブランド食器として位置づけられているため、複数の買取業者で相見積もりを取ることが推奨されています。
近年の傾向として、伝統的なロココ調のシリーズだけでなく、モダンなデザインのシリーズも注目度が高まっており、将来的な価格上昇も期待されています。
kmpベルリンの真贋を見極める上で最も重要なのが、磁器の底部に刻まれた刻印(マーク)の確認です。1763年の設立以降、kmpベルリンは時代ごとに異なるマークを使用しており、これらのマークは専門家が製造時期を特定する重要な手がかりとなっています。
時代別マークの特徴
初期のマークは王笏を中心としたデザインで、フリードリッヒ大王がエンブレムとして使用を許可したものです。1962年以降はより現代的なマークになり、製造場所の名前が記載されることが多くなりました。
1980年代にベルリンで製造されたものには「ROYAL PORZELLAN KPM GERMANY.」と記されているケースもあります。この詳細な表記は、現代のkmpベルリン製品の特徴的な識別方法の一つです。
真贋判定の注意点
専門家によると、マークをコピーすることが偽物を本物に見せる最も簡単な方法であるため、マークだけに頼った判定は危険です。「適当な磁器にマークを入れるだけで、見方を知らない購入者は購入してしまう」と警告されています。
真贋判定で重視すべきポイント。
確実な真贋判定には専門知識が必要なため、高価なkmpベルリン製品を購入する際は、信頼できる専門家や鑑定士に依頼することが推奨されています。
伝統的な磁器ブランドとして260年以上の歴史を持つkmpベルリンですが、現代においても革新的な取り組みを続けています。その最も注目すべき例が、異業種の高級ブランドとのコラボレーションです。
高級ブランドとの戦略的提携
近年、kmpベルリンはイタリアの高級ファッションブランド「ボッテガ・ヴェネタ」や超高級車メーカー「ブガッティ」との異色のコラボレーションを実現しています。これらの提携は、伝統工芸と現代のラグジュアリーブランドとの融合という新しい価値創造の試みとして業界で注目されています。
環境への配慮と現代性
現代のkmpベルリンの真骨頂として挙げられるのが、携帯用コーヒータンブラー(To-go Cup)の開発です。環境先進国ドイツらしい発想で、1790年からあるクアランドのデザインを取り入れた携帯タンブラーを製作しています。これは「伝統とモダンの融合」を体現した製品として評価されており、黒と白の2色展開で現代のライフスタイルに対応しています。
デザイン賞受賞による国際的評価
1996年に発表された「ベルリン」シリーズは、著名デザイナーのエンゾ・マリ氏との協力により生まれました。このシリーズは1998年に毎年全世界の優れた工業製品を表彰する「iFデザイン賞」を受賞し、現在でもkmpベルリンを代表するシリーズとして国際的に高く評価されています。
技術革新への継続的投資
19世紀にkmpベルリンは磁器の研究を専門とする科学技術研究所を設立し、新しい釉薬と色の開発に取り組みました。この技術革新への姿勢は現代でも継承されており、伝統的な手描き技術を維持しながらも、新しい表現方法や製造技術の研究開発を続けています。
これらの現代的な取り組みにより、kmpベルリンは単なる伝統工芸品ではなく、現代のライフスタイルや価値観にも対応できるブランドとしての地位を確立しています。老舗でありながら革新を恐れない姿勢が、260年を超える長い歴史の中で培われた真の強さと言えるでしょう。