フローラダニカは、1790年にデンマーク王室によって誕生した世界最高級の食器シリーズです。その名前は「デンマークの花」を意味し、1761年から122年間にわたって編纂された植物大図鑑「フローラダニカ」に収録された約3000種類の植物をモチーフとしています。
この食器の制作は、フレデリック王子が当時絶大な勢力を誇っていたロシアの女帝エカテリーナ2世への献上品として企画されました。12年もの歳月をかけて制作される予定でしたが、エカテリーナ2世が完成前に亡くなったため、最終的にはデンマーク王室で使用されることになりました。
興味深いことに、この壮大なプロジェクトには悲劇的な側面もありました。下絵を描いた絵師J・C・バイエルは、2000種以上もの植物を描き続けた結果、ついに失明してしまったのです。この事実は、フローラダニカがいかに精密で労力を要する作品であるかを物語っています。
最初のフローラダニカは1803年、クリスチャン7世の誕生日を祝う晩餐会で初めて使用され、以降デンマーク王室の公式晩餐会には欠かせない存在となりました。現在でも1802点に及ぶオリジナル作品がローゼンボーグ城に保存されており、デンマークの貴重な文化財となっています。
三越伊勢丹のフローラダニカ特集
フローラダニカの詳細な製造工程や歴史について詳しく解説されています。
フローラダニカの製造工程は、まさに芸術作品の創造過程と言えるでしょう。最も特徴的なのは、一つの作品を2人のペインターによって作り上げることです。一人が花のモチーフを描き、もう一人が金彩を施すという分業制を採用しています。
ペインターたちは、植物の球根や毛根まで細密に描写するために、自らカットした数種類の特別な筆を使用しています。これにより、植物図鑑と見紛うほどの精密さを実現しているのです。例えば、アルプスに咲くサクラソウ(学名:primula integrifolia)をモチーフにした作品では、実際の植物と比較してもその再現度の高さに驚かされます。
製造工程で特に注目すべきは焼成の回数です。色ごとに5回以上の焼成を行うという当時からの伝統的な工程が現在も維持されており、この手間のかかる工程が独特の発色と耐久性を生み出しています。
また、複雑な形状の食器になるとペインターの人数も増加します。例えば、スープチューリンの場合、フタ、本体、スープスタンドにそれぞれペインターと箔置き師が2人ずつ携わるため、合計6人での作業となります。
金彩装飾には24金が使用され、パールを置いたような装飾やのこぎりの歯のような形状の縁飾り、糸のようなゴールドのラインなど、すべてが職人の手作業によって施されています。この豪華な金彩が、フローラダニカを他の食器と一線を画す存在にしているのです。
フローラダニカは、アンティーク食器市場において極めて高い評価を受けており、その買取相場は驚くほど高額です。一般的な食器とは桁違いの価値を持つこの作品は、投資対象としても注目されています。
具体的な買取相場を見ると、最も基本的なカップ&ソーサー1客でも1万円以上の買取価格が期待できます。プレートについては大きさによって異なりますが、小さめのものでも1~2万円前後から、大型のものになると数万円の買取価格となることも珍しくありません。
特に注目すべきは、ティーポットなどの中型食器の買取相場です。多少の小傷や汚れがあっても概ね美品と呼べる状態のティーポットで、約10万円前後の買取相場が期待できます。これは、フローラダニカの制作工程が食器パーツの数に比例してペインターの数が増えるため、中型・大型作品ほど制作コストが高くなることを反映しています。
買取価格が高額になる理由として、以下の要因が挙げられます。
未使用品はもちろん、使用済みのものや箱などの付属品がないものでも高価買取が行われており、その価値の高さがうかがえます。ただし、状態や年代、デザインによって価格は大きく変動するため、正確な査定を受けることが重要です。
食器買取のフローラダニカ買取相場詳細
フローラダニカの詳細な買取相場と査定ポイントについて専門的な情報が掲載されています。
フローラダニカには、長い歴史の中で様々なバリエーションが生まれています。最も有名なのは1790年に制作されたオリジナルのディナーセットですが、その後も特別な機会に新しいセットが制作され続けています。
歴史的に重要なコレクションとして、1862年のデンマークのアレクサンドラ王女とウェールズのアルバート・エドワード皇太子(後のエドワード7世)の結婚を記念して制作されたセットがあります。このセットは60人分、全725点にも及ぶ大規模なものでした。
さらに注目すべきは、1947年にエリザベス王女(後のエリザベス2世)とフィリップ王子の結婚祝いとして、デンマーク王と王妃から贈られた新しいフローラダニカセットです。このように、重要な王室の慶事には必ずと言っていいほどフローラダニカが選ばれてきました。
1964年にはデンマークのアンナ・マリア王女とギリシャのコンスタンティノス2世の結婚祝いとして、再び60人分のフローラダニカセットが制作されています。
現代では、日本との友好関係を記念した特別なコレクション「フローラヤポニカ」も存在します。これは日本に自生する花々をフローラダニカの技術で制作した特別なコレクションで、新元号を記念したワインクーラーやプレートセットなども発表されています。
各コレクションの特徴。
それぞれのコレクションは、その時代の政治的・文化的背景を反映しており、単なる食器を超えた歴史的価値を持っています。
フローラダニカのような高級磁器を長期間美しく保つためには、適切な保管とメンテナンスが不可欠です。これらの知識は、コレクターや所有者にとって資産価値を保護する重要な要素となります。
保管環境の管理
温度と湿度の管理が最も重要です。急激な温度変化は磁器にひびを生じさせる原因となるため、一定の室温(18-22℃)を保つことが理想的です。湿度については40-60%の範囲を維持し、除湿器や加湿器を使用して調整します。
直射日光は金彩の劣化や変色の原因となるため、UV カットフィルムを貼った棚や暗所での保管が推奨されます。また、振動の少ない場所を選び、地震対策として滑り止めマットや固定具を使用することも重要です。
日常のメンテナンス
清拭作業では、マイクロファイバークロスなど柔らかい布を使用し、金彩部分は特に優しく扱います。中性洗剤を薄めた水で洗う場合は、ぬるま湯(30℃以下)を使用し、研磨剤入りの洗剤は絶対に避けます。
食器洗浄機の使用は推奨されません。高温と洗剤の化学反応により、金彩が剥がれる可能性があるためです。手洗いが基本となります。
長期保管のポイント
専門的なメンテナンス
小さなひびや金彩の剥がれが見つかった場合、自己修復は避け、陶磁器修復の専門家に相談することが重要です。不適切な修復は価値を大幅に下げる可能性があります。
また、保険の加入も検討すべき要素です。フローラダニカのような高価な食器は、一般的な家財保険では十分にカバーされない場合があるため、美術品専用の保険を検討することをお勧めします。
これらの適切な保管とメンテナンスにより、フローラダニカは何世代にもわたって美しさを保ち続けることができ、その投資価値も維持されるのです。