ウィーン磁器工房アウガルテンは、1718年にハプスブルク王朝の栄華の中で誕生した、ヨーロッパで2番目に古い磁器工房です。創設者のクラウディウス・イノセンティウス・デュ・パキエは、マイセンから逃亡してきた職人サミュエル・ストエルツェルらの技術を得て、皇帝カール6世からハプスブルク家の領地内での磁器製造独占権を獲得しました。
特筆すべきは1744年の出来事で、女帝マリア・テレジアの勅命により王室直属の窯となったことです。この時、王室直属の証として与えられたコバルトブルーの楯型紋章が現在でもアウガルテンの製品に刻印されています。
アウガルテンの歴史は決して平坦ではありませんでした。ハプスブルク家の衰退とともに約60年間窯を閉じていた時期があり、その間にハンガリーのヘレンドがアウガルテンのデザインを継承したという興味深い歴史があります。1924年にアウガルテン宮殿内で磁器工房として復活を遂げた後、現在まで300年という長い歴史を誇っています。
現在のアウガルテン宮殿の隣には、ウィーン少年合唱団の寄宿舎があり、工房では日中美しい歌声が聞こえてくるという素晴らしい環境で磁器製作が行われています。
アウガルテンの最大の特徴は「真の手作り」を信条とした製造工程にあります。現在でも全工程をわずか30人の職人がすべて手作業で行っており、その生産量は極めて限られています。
製造工程は以下のような段階を経ています。
特に注目すべきは絵付け工程で、すべてハンドペイントによって行われています。ハプスブルク家のお膝元であった芸術の都ウィーンの華やかな文化の中で生み出された様々なパターンの絵付けは、現在でも当時と同じ技法で描かれています。
アウガルテンでは製品の型情報なども全て保管されているため、「廃盤」という概念がありません。ポットの蓋やカップのみといった補充も可能で、これは手の込んだ仕事を続けている証拠といえるでしょう。
アウガルテンの白磁は、繊細かつ優雅なフォルム、しっとりと手に馴染む艶やかな生地、細部まで精巧を極めた細工により世界中で高い評価を得ています。
マリーアントワネットシリーズは、お気に入りのブルーと豪華な金装飾を合わせた名品の復刻版として人気を博しています。美しいブルーの色合いが印象的で、マリア・テレジアシリーズと並んでアウガルテンの代表的なシリーズです。
ウィンナーローズシリーズは特に興味深い歴史を持っています。本来はアウガルテンが本家でしたが、工房が閉鎖されていた期間にヘレンドが「ウィーンの薔薇」として継承したため、現在では両ブランドで類似のデザインが存在しています。日本ではヘレンドの方が有名ですが、アウガルテンのウィンナーローズが本家であることは意外と知られていない事実です。
ウィンナーフラワーシリーズでは、ヒルガオやクロッカスなど、ウィーンの四季を彩る花々が繊細に描かれています。これらの絵柄は全てハンドペイントで描かれ、同じデザインでも微妙な違いがあることが手作りの証です。
アウガルテンのティーカップは機能性も考慮された独特の形状を持っています。カップの口が少し内側に湾曲しており、これにより香りが逃げにくくなるという工夫が施されています。18世紀のウィーンで花開いたカフェ文化の中で、コーヒー専用の器を作らせることになったのは歴史の自然な流れでした。
アウガルテンの食器は、その希少性と品質の高さから決して安価ではありません。例えば、ウィンナーフラワーシリーズの長方形皿(8×6.3cm)で27,500円(税込)という価格設定になっています。
価格が高い理由には以下の要因があります。
購入方法としては、正規取扱店での購入が最も確実です。日本国内では専門の洋食器店や百貨店で取り扱いがあります。また、ウィーンのアウガルテン宮殿内の工房では直接購入も可能で、工房見学と合わせて訪れる観光客も多くいます。
オンラインでの購入も可能ですが、手作りの特性上、実際に手に取って確認することをおすすめします。アウガルテンファンの中には、長年かけてシリーズを揃えていく楽しみを見つける方も多く、一生ものの食器として親から子、子から孫へと何世代にも渡って受け継がれています。
アウガルテンの食器は適切なお手入れを行うことで、その美しさを長期間保つことができます。特に手描きの絵付けや金彩装飾が施された製品は、取り扱いに注意が必要です。
日常のお手入れ方法。
保管時の注意点。
長期保管のコツ。
使用頻度が少ない場合でも、年に数回は取り出して風通しを良くすることが大切です。また、アウガルテンの白磁は時を経ても変化することがないため、適切な保管により何世代にもわたって美しさを保つことができます。
カフェ文化の都ウィーンで生まれたアウガルテンのコーヒーカップでお茶を楽しむ際は、カップが少し内側に湾曲した形状により香りが逃げにくくなるという機能美も味わえます。献上加賀棒茶のような日本茶でも、アウガルテンの薄い口当たりにより一層美味しく感じられるという愛用者の声もあります。
近年では「ウィーン・プロダクツ」にも認定されており、ウィーンの歴史と芸術を受け継ぐ高品質な製品として国際的な評価も高まっています。マイセンやヘレンドに比べて日本での知名度はまだ高くありませんが、その分希少価値が高く、真の磁器愛好家に愛され続けているブランドといえるでしょう。