アラビア食器は、1873年にフィンランドの首都ヘルシンキ郊外にある「アラビア地区」で創業されたフィンランドを代表する陶磁器ブランドです。創業当初は、スウェーデンの老舗陶磁器メーカー「ロールストランド社」の子会社としてスタートしました。
興味深いことに、なぜスウェーデンの会社がフィンランドに工場を設立したのかには、当時の政治的背景が関係していました。当時フィンランドはロシア統治下にあり、ロールストランドはかねてより進出を希望していたロシア市場への足がかりとして、より安い税金で製品を輸出できるフィンランドでの生産を選択したのです。
1900年のパリ万国博覧会では金賞を受賞し、国際的な評価を確立。その後1916年に独立を果たし、フィンランド最大の陶磁器メーカーへと発展していきました。
創業初期の製品は現在のシンプルな北欧デザインとは大きく異なり、イギリスやドイツ、フランスの窯にも見られる花柄のブルー&ホワイトや、シノワズリ(中国趣味)のカップなども製造していました。これは当時のヨーロッパの陶磁器トレンドを反映したものでした。
現在のアラビア食器の製造は、主にタイとルーマニアの契約工場で行われています。この大きな変化は2016年以降に起こりました。
2014年にARABIAはイッタラグループに買収され、フィンランドの食器業界に大きな影響を与えました。2000年代後半から中国をはじめとする新興国の食器メーカーとの競争が激化したことが、生産拠点移転の背景にあります。
📍 現在の製造体制
フィンランド国内で製造されているアラビア食器は現在ごく一部のみとなっており、具体的には以下のような製品に限られています。
一般の店頭で見かけるマグカップやプレートのほとんどは、現在タイ製となっています。
多くの人が気になるのが、フィンランド製とタイ製での品質の違いです。実は、この点について興味深い事実があります。
価格の違い
フィンランド製のアラビア食器は手作業の部分が多く、限定性やコレクタブル性から価格が高めに設定されています。一方、タイ製は大量生産のため比較的低価格です。工程数や両国の賃金差がそのまま価格に反映されています。
品質・出来栄えの違い
驚くべきことに、製造品質に関してはタイ製やルーマニア製の製品がフィンランド製よりも優れているとされています。具体的には以下の点で差が見られます。
🔍 タイ製が優れている点
これは現代の工業技術と品質管理システムの向上によるものです。ただし、「よく出来ている」という意味が重要で、フィンランド製には手作りならではの温かみや個性があります。
デザインと品質管理
重要なのは、製造がタイとルーマニアに移された後も、アラビアのブランド開発、デザイン、ポートフォリオの管理はヘルシンキで継続して行われていることです。2016年には新たにイッタラとARABIAデザインセンターがオープンし、ブランドのデザインと品質管理が保たれています。
アラビア食器には長年愛され続ける人気シリーズがあり、それぞれに独特のデザイン特徴があります。
パラティッシ(Paratiisi)シリーズ
1969年にビルガー・カイピアイネンによってデザインされた代表的シリーズです。「パラティッシ」はフィンランド語で「楽園」を意味し、パンジーやカシス、ぶどうやリンゴなど瑞々しい花や果物が大胆にあしらわれています。
🎨 パラティッシの特徴
24h トゥオキオシリーズ
フィンランド語で「瞬間」を意味するこのシリーズは、24時間毎日使えることをコンセプトにしています。濃いブルーに大胆な手書きのラインが特徴的で、和食器のような見た目から和食にも違和感なく使えます。
24h アベックシリーズ
2003年にアラビア創業130周年を記念して発売されました。映画「かもめ食堂」にも登場し一気に有名になったシリーズです。畳の目のような細かな模様が特徴で、ブルーとパープルの2色展開です。
これらのシリーズに共通するのは、北欧デザインらしいシンプルさと機能性、そして長く愛用できる普遍的な美しさです。
アンティーク食器愛好家にとって、アラビア食器は非常に魅力的な収集対象です。特にフィンランド製の年代物は、その希少性と歴史的価値から高い評価を受けています。
年代判定のポイント
アラビア食器の年代を判定する際の重要なポイントがあります。
🔍 刻印による年代識別
希少価値の高いシリーズ
特に収集価値が高いとされるのは以下のシリーズです。
保存とメンテナンス
アンティークアラビア食器を長期保存する際の注意点。
投資としての価値
フィンランド国内では古いアラビア製品は蒐集品として高値で取引されており、特に状態の良いヴィンテージ品は年々価値が上昇しています。ただし、偽物や復刻品も存在するため、購入時は信頼できる専門店での購入が重要です。
現在でもヘルシンキのアラビア工場跡地には、ARABIA・iittala ファクトリーショップが残っており、アラビアファンにとっては聖地のような存在となっています。ただし、2016年の工場閉鎖以降、アウトレット品の販売は終了しているため、掘り出し物を見つけるのは難しくなっています。
アラビア食器の収集は、単なる投資目的だけでなく、フィンランドの文化と歴史を感じられる貴重な体験でもあります。一つ一つの製品に込められたデザイナーの思いと、150年にわたる伝統の重みを感じながら、日常使いできる美しい食器として楽しむことができるのが、アラビア食器の最大の魅力と言えるでしょう。